明るい茶色の毛並みが美しい、馬。ふと、こちらに気づいてハッとその足を止めた。警戒しながらも馬と私たちがじっと見つめ合う時間は、突然出会った野生同士のピンとした緊張感があった。
そっと馬から離れて、周辺の散策を再開する。小道にはまた小道の世界があって、植物の様子も違っているんだ。小ぶりの葉をつけ丸く密集して生息している植物たち。休憩しようと座り込むと小さなぼんぼりのような植物が地面にいた。広すぎるほどに広い大地にはまた、当たり前のように小さなミクロの世界もある。
まるで寒さから身を守る体毛のように、細い繊維のようなものが木を覆って生えている姿をあちこちで見かける。寒いウシュアイアでは植物も自分で暖かくして生き長らえているんだね。
小道から出て少し歩くと、急に視界が開けてレストランの看板が現れた。思えばずっと長い間歩きっぱなしだ。喉も渇いていたのでまるでオアシスを見つけたような嬉しさだったよ。
レストランに向かう道すがら、横目に見える山のなだらかなラインが美しい。静けさに満ちた世界…水鳥が3羽、湖に波紋を描きながらゆっくりと歩いている。
レストランに入ると、ショーケースの中に種類豊富なキッシュ、具沢山のスープ、チキンやケーキなどがバイキング形式に並べられていた。目の前にあった野菜のキッシュと牛肉と豆の具沢山シチュー、そしてハニービールをオーダーしてみた。料理の味はというと、かなり美味しい。ただ、量がすごいので何かをひとつ注文するだけで充分足りるかな。お腹もいっぱいになって、街に帰ることにした私たち。
車に乗って揺られていたら不意に車が止まった。何かあったのかと思ったら、すぐ近くの野原で野生のキツネが体を休めていたんだ。全然逃げる様子もなくって慣れてる感じだったよ。その子はまるでひなたぼっこをしてるように、そこで座って両腕を付きくつろいでいた。いつものお気に入りの場所なのかな?それともたまに通る車を眺めては、さっきの駅員さんみたいに「ようこそ」って迎えてくれているんだろうか。心の中で「お招きありがとう」と囁いてみる。