ビースボートの船旅であちこち迷走したHinataの旅物語、「Peace on the Boat trip」。
笑いありハプニングあり、ちょっと不思議でほんわか緩まるHinataワールドへようこそ。
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静けさに満ちた世界・感性が広がっていく最果ての地
船はウシュアイアに到着した。冷んやりとした空気に体がキリリと引き締まる。前回までの寄港地と違ったいきなりの寒さに少し戸惑いつつも、コートを片手に持ちながら街へとゆっくり歩き出してみる。
ウシュアイアの透明な空気感。時間が経つにつれ寒さは肌に心地よく馴染み、頭の中もクリアに洗練されていく。凛とした風景を前にすると、自然と呼吸も深くなっていくようだ。正面に広がる山並みには真っ白な雪が名残惜しく残り、南極に近い土地の夏景色を垣間見せている。同じアルゼンチンでもウシュアイアは冷んやりと過ごしやすく、ブエノスアイレスからここに避暑地としてやって来る人もいるそうだ。
港からタクシーに乗り、山腹にある汽車の駅に向かった。街からどんどんと離れて山道を車で進んで行く過程で、結構山深く入ってきたけど道を間違っていない?と思った頃に、その小さな駅はひょっこりと顔をのぞかせた。
「ようこそ、最果て号へ!」発車時刻ギリギリに飛び込んだ私たちを笑顔で送り出してくれた駅員さん。こうしてたくさんの人をいつも送り出しているのだろうか。少し小走りに、私たちは空いている車両を探して飛び乗った。南に向かって出発、さぁ最果ての地へと続く旅の始まりだ。
狭い車内は世界各国からの観光客で賑わっている。飛び交う言葉も様々で面白い。試しに話しかけたけど言葉が全く理解できなかったよ。一体何語だったんだろう、とにかく初めて聞くような言葉で驚いた。きっと世界各地からこの地に集まってきてるんだね、「最果ての地」…誰もが想像力を掻き立てられるそのキーワードに引き寄せられるかのように。
車窓から流れ行く風景を興味深く眺めていると、植物の種類が今まで寄った寄港地とかなり違うのに気づく。針葉樹らしき細長くヒョロリとした木々の森は、この土地の繊細さと、厳しい寒さの時期が時に訪れることを伺わせている。
ひとつ目の駅に停車した。そこにあるのはただただ広大な景色のみ、なにひとつ建物もない。駅のすぐ横に可愛らしい小川が流れていたよ。冷たい水に指先を浸す…この水は森の向こうに見える山の雪が溶けて浸透し、長い時間をかけてここまで流れてきている旅の水なんだと思うと感慨深いものがある。
ふと目の前を見ると、一人旅だろうか…おじさんが木の柵にもたれて立っていた。あまりにこの景色にぴったり溶け込んでいるその立ち姿から、彼がとてもリラックスしているのが感じられる。日常から遠く離れたひと時。ひとりになって心巡らす時間もまた素敵だよね。
汽車はとても小柄で、蒸気はふわふわと優しく揺れている。駅は二駅しかないけど一駅づつがそれなりに距離があり、山や川や草原を超えてどこまでもシュッポッポッと走っていく。少ない車両にキュッとたくさんの人が乗り込んで、肩を近くに触れ合わせるような様子は何だか愛おしい光景だ。カメラを片手に誰もがこの景色を楽しんでいる。