デッキの向こうに景色が流れだす。船は次第に速さを増しながら、ニューヨークへと繋がった一日の記憶を過去のものへと引き離して行く。遠ざかるように見えてどこまでも追いかけてくる摩天楼。
高層ビルが照らし返す太陽がこちらに向かって一直線に伸びてくる、その強烈な光に目を細め、デッキに溢れた人々はカメラを胸まで下ろした。ぐるりと後ろを振り返ってもう一方に広がる景色を仰ぎ見ると、人々のカメラが構えられたその先に、「自由」の象徴が立っていた。
右手に松明を空高く掲げ、左手に「独立宣言書」を持つ彼女。長いローブをまとった足元には、引きちぎられた鎖と足かせがあるという。ここからはそれは見えない。繋がれた鎖を、一方の足は引きちぎり踏み出した状態にある。だけど残されたもう一方は、未だ繋がったまんまなんだ。
「世界を照らす自由」が正式名称でもある「自由の女神」。目に見える部分でそれは大きく主張されている。だけどローブの下に隠された部分にあるもう一方の現実。これは、今のアメリカをリアルに象徴しているものだと思うよ。真実はいつもどこか、隠されている。
自由という言葉は二種類あって、誰もが生まれながらに持ち合わせた自由(freedom)と、自らが勝ち取る自由(liberty)があるんだって。アメリカの言う自由は後者らしい。かつてヨーロッパ諸国からの独立を勝ち取った歴史があるアメリカ。
生まれ持った自由を奪われるのは悲しいことだ。だけどそんな苦しみを、誰かを弱者に仕立てて同じように繰り返してしまっているという因縁の形が、ここに見える気がする。そうなると色んな人たちが住むアメリカは、いつまで経っても目指している自由には到達できないということになってしまうよね。
だけど、変わりつつもあるアメリカ。いつかローブの下の足枷が外れ、女神が微笑みながら歩き出す時がやって来るのかもしれない。
広がる空は次第に色を重ね、夜へと向かっている。小さく遠のいていく彼女とマンハッタンから、進行方向に広がる果てしない水平線へと視線を移した私はようやく、大きくひとつ深呼吸をした。