気がつくと、2時間半という時間が通り過ぎていた。ザッツエンターテインメント。そんな言葉の意味を実感したのは初めてだ。紛れもないプロ集団を目の当たりにすると、深いため息しか出ないもんだね。感想なんて言葉で言う必要もないよ、もう観るだけでいい。
ストーリーはクライマックスを迎えて、人々のスタンディングオベーションを受けた出演者たちは、誇らしげにステージに並んでうやうやしくそのこうべを垂れた。その最後まで全部が完璧な姿に、これがブロードウェイって世界なんだなぁってことを知った夜だった。
次の日、私は珍しく熱を出していた。ここ最近は気だるさがあったんだけど、油断してたかも。きのう夜眠る前にずっと考えていたことがある。そう、カフェで知り合ったハーレムのおじさんとの約束のことだ。結局どうにもできないままに朝、布団の奥に丸まり込んだ私は、熱にうつらうつらしながらも思考の渦から抜け出せずにいた。
ニューヨークのスラム街。ここに昔から住む黒人のおじさんと、平和ランド日本からやって来た私たちとは、同じスラムに立ったとしても明らかに存在の意味が違う。現状をこの目で見てみたい反面、知りたい気持ちだけで中途半端なことをしては失礼だとも思う。自由の国のもう一つの姿…そんな現実に向き合えきれる訳もないのに。
表面だけを覗き見るだけならまだしも、扉を開けてそこに一歩踏み込むのは意味が違う。どうにもならない現実を目の前にした時、私には分からないから~って言って終わるならば、じゃあなんでここに来たの?ってなるよね。
正直、覚悟がなかったのかもしれない。そんな自分の弱さが「熱」っていう形で現れたんだろうな。行けなくなったことに少しホッとしながらも、眠れないまま熱は頭痛を伴って、ジンジンと私を問い詰め続けた。