「シカゴ」は、日本でも名が知れたミュージカルだ。ニューヨークでも人気があるらしく、すでに劇場前に行列ができている。ようやく会場に入ると2階席に案内された私たち。見下ろしたその正面のステージには、四角い箱を横斜めに切り取ったようなボックス型の演奏席があった。
比較的こじんまりした会場内の三分の一ほどはそのステージでしめられていて、まるでステージにお邪魔するかのような境目のない雰囲気にワクワクする。
オーケストラの男性たちは楽器を持ってすでにスタンバイしている。私たちはざわめく会場の狭い通路に足を踏み入れ、ぎゅうっと詰まって座る人をかき分け座席に座り一息ついた。
狭いが故に臨場感あふれる劇場の、その昔からのものであろう気配にじっと浸ってみる。目をつぶったまま意識がどこかに誘われそうになった頃、まぶたの向こうにある現実世界も闇へとフェイドアウトした。
物語は、1920年代のシカゴに始まる。犯罪を犯した主人公の女性が繰り広げるスターへの道。スキャンダラスで波乱に満ちながらも、主人公が彼女自身の人生を謳歌させていくその光と闇を描くストーリーだ。ステージに女たちが立った。ひとりひとりが個性豊かにそこにいる。
始まってすぐにオーケストラの生演奏と劇の一体感、まずはそれに衝撃を受けた。ジャジーな演奏に軽快なダンス、そこに言葉がツタのように絡んでいく。音楽ありきなのか、ダンスありきなのか…そのどちらでもなくどちらもがせめぎ合っているかのような、両者が勢いを増していく展開に心は掴まれっぱなしだ。
相変わらず言葉は分からないままでも、純粋な現象を見たままに捉えられるから逆に新鮮でいいかもしれない、なんて思いながら視覚と聴覚をステージに集中させる。