たまたま街を歩いていて、ひょっこり出会った同船の男子2名と、そのまま成り行きで連れ立って対岸のビーチを目指している途中のこと。街からちょっと離れてきたかなぁって頃に、ミニバスのような車が私たちの隣にギギーッって止まった。
「乗ってく?」すんごい気軽に声をかけられたよ。中を見ると人でいっぱい、なんか地元感たっぷりなんですけど。それもそのはず、どうやらローカルバスらしい。いきなりの面白い展開に、顔を見合わせて瞬時に勢い良く車に乗り込んでみた私たち。
地元客しか乗っていないそのバスは笑えるくらいにかなりのボロボロ。ひしゃげていて傾いてる座り心地のヤバそうなイスを、「ここ空いてるよ」ってローカルの男の子が教えてくれたんだけど、さすがにそれは満面の笑顔でパス。
見渡すと車の座席は後ろまでギュウギュウで、最後尾の長イスの空きをようやく見つけて狭い通路を奥まで進む。私たちが座るまでも待たず車は勢い良く発車、乗車口のドアを大きく開けっ放したまんまで、何ごともなく走り出した。おお、開放感あり余る感じはさすが南国。
えっと、それでこのバスはどこ行きなんだろう。乗るときに「ブリッジ」って単語を言ってたからたぶん、対岸に渡る橋の所で降ろしてくれるんだろうと思ってるんだけど。
ここに乗っているみんなは多分おウチに帰るんだろうね、みんなが降りる最後の場所までついていきたい気持ちでいっぱいだ。この国の生活感を感じてみたいなぁって思いながら、だけど時間までにここまで帰ってこれる保証がないからなぁって諦める。
地元民だらけの所にポツンと紛れ込むって面白いよね。治安の悪いところでは絶対にしないけど、比較的に安全って場所では地元民だらけのお店に入ってみたりするんだ。
知らない言葉や匂いの中に混じってみると、いつもの自分が、違う人になったような感覚になったりしてさ。自分の感性が入れ替わるというか、そこの空気感に沿う感覚がなんとも言えない。
座席の窓も乗車口のドアも丸ごと開けっ放しで走るローカルバスは、まるでオープンカーに乗ってるみたいな風通しの良さ。地面からの熱気交じりの風が窓から吹き込み、頬を煽るように撫でていく。
ラジオから流れる軽快な音楽と地元の話題、おんぼろバスにキュッと詰まって乗り合わせている地元の人々…今日一番、バハマを表面的でなくリアルに感じた瞬間だった。
対岸のビーチを探しに行こうと、大きな橋を渡り始めた私たち。天気も眺めも最高で歩いているだけでホント気持ちがいい。橋の上だから景色は360度の青い海、太陽が海面を照らしてその輝きを反射させている。
心地よい潮風を受けながらのんびり歩いて対岸の島に着くと、そこに広がる光景に一瞬「えっ?」と立ち止まってしまった。道路の真ん中が仕切られて施設のゲートチェックのようになっていたんだ。
私たちはその横側にある細い通路を抜けて島に入ることができた。島に入るのにチェックが必要だなんて…ちょっと違和感を感じながらも細い入り口を言葉少なく通過する。地元民はこの仕切りをどう感じているんだろうか。
バハマでは貧富の差はかなり大きくて、ナッソー近辺では未だ水道も通ってない所もあれば、少し離れた所に何億もする豪邸が建っているという話だ。世界の色んな場所にある、違和感の欠片…だけど、この場所で立ち止まっても仕方がない。頭を切り替えて課題は持ち帰りつつ、ここでの一日をしっかり楽しもうと道を進んで行った。
島にある施設沿いを大回りして、ビーチを探してひたすら歩いていく。かなり歩いた先にあったビーチはやたら波が高くて入れず、後で聞いたら、ここで泳いだという友人は波に巻かれて遊んでいたって話。場所によって波の具合が違うんだね、船の停泊場近くのビーチはとっても穏やかだったよ。
だけど波の色はターコイズブルーで美しく、さすが南国の海。眺めているだけで遠くに誘われてしまうような透明感。ふと見上げると、夕暮れ前の太陽に照らされた空には虹の欠片「彩雲」が。彩雲を見つけられると幸運が訪れるって話があるんだよ。ささやかな幸せを感じながら、さっき買った甘いドーナッツを口いっぱいに頬張った。
夕日を、あの大きな橋の上から見たいねって話になって、波とドーナッツを満喫し終わった私たちは足早に引き返して行った。どこの国に行っても、海と夕日がある風景は素敵な思い出をもたらしてくれる。
橋の上からの夕日は、港と対岸の街を照らしながら黄金に輝いていた。地球上のどこにいてもこの美しい光と出会えることに心から感謝。この旅で出会って友だちになった人々も、今日どこかで同じようにこの夕日を眺めているのかなぁって思えることの幸福感。
そして。思いっきり感傷に浸った後にはいつものセリフ「綺麗だったねえ、さあ、ビール飲みにいこ!」