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ビースボートの船旅であちこち迷走したHinataの旅物語、「Peace on the Boat trip」。 笑いありハプニングあり、ちょっと不思議でほんわか緩まるHinataワールドへようこそ。 最初から読む ひとつ前の記事を読む
アイスランドに着いたのは、空が灰色でとても雨風の強い日だった。
この後に嵐がやってくるという天気予報の為に、明日、時間を早めて出航することになってしまった私たちの船。外は嵐の前触れで次第に雨足も強くなってきている。そんな中、せっかくアイスランドまで来たので少しでも散策しようと、雨風の吹く中をレイキャビクの街まで繰り出してみたんだ。

タクシーに乗り、まず初めに着いた場所は教会だった。雨を避けながら飛び込むように扉の中に入るとそこには、全体が雪のように真っ白でシンプルな空間が広がっていた。高い天井が間接照明でライトアップされていて、何となく温かみのある雰囲気だ。
天井まで届こうかというくらいの大きなパイプオルガンが、教会の入り口上部にまるでオブジェのように光り輝いていたよ。これで演奏したら一体どんな音楽が鳴り響くんだろう…想像しただけでも鳥肌が立ちそうなくらい、骨太で立派なパイプオルガンだったんだ。

建物の構造自体もロケット型のように上に長く伸びている形で、まるでこのパイプオルガンをはめ込むために作られたかのように、そのフォルムに合った理想的な造りになっている。全体的なラインは美しい流線型で、スラリとして無駄がない。
教会の内部も、所変わればだね。ヨーロッパの装飾だらけの教会からしたら、ここまでシンプルなのかと思えるほどに装飾はほとんどないんだ。信仰の具合いや歴史的なものも、関係しているのかも知れないね。

物も生き方もハイセンス?
教会を出てもまだ雨がポツポツ。私たちは急ぎ足で目的地のカフェに向かう。友人お勧めのそのカフェは、話に聞いていた通りに可愛いお店でさ。早速ショーケースの中のスイーツを物色し、暖かいドリンクと共にオーダーした。またもや、ケーキにフォークが突き刺さったまま出てきてウケる。
ホントに海外ってこんな感じなんだね、ポルトガル以来だわ。フォーク以上に更に驚いたのはその甘さ。とにかく甘あまのケーキとドリンクだったけど、こんな肌寒いような日にはまぁ、これもありかな。お喋りを楽しみながらそこでホッと心身温まる時間を過ごす。

小雨になったタイミングでカフェを出て、あてもなく街を散策していたら本屋さんを発見。もちろん本は外国語だけど、写真や絵は万国共通だ。
アイスランドの本ってセンスがいい感じがする、お洒落なんだよね。表紙を見て歩くだけでも楽しいから見ていて飽きない。店内にはカフェも併設されていて雰囲気もよし。ふと、レジの隣に並べられていたDVDに目が止まった。

アイスランドの映画「馬々と人間たち」。この映画、そういえばアイスランドの映画だったね。見たことあるよ、凄い斬新というかぶっ飛んだ映画だったんだ。どう斬新なのかって言うと「馬が主役」ってとこがかな。とにかく馬を中心に描かれた人間ドラマなんだ。
常にスクリーンには馬が出てくる。だけど馬が喋ったりするとかそういう訳ではなくて、あくまでも「馬と共にあるアイスランド人」が主役で。これを見ると人と馬との関わり方を通して、アイスランド人の持つ自然観が垣間見えるようになってるんだ。まあ、街に住む人も馬と関わりがあるかって言ったら、その辺りはちょっと分からない部分もあるんだけどさ。

アイスランドの人々の世界観
実はアイスランドって相当な大自然なんだよ、驚くほどの。東西からのプレートが作り上げた地球の裂け目「ギャオ」や、氷河に火山、世界最大の露天風呂「ブルーラグーン」なんかもある。それらが直接画面には登場しないまでも、そんなダイナミックな要素があるアイスランドを、あらゆるシーンで感じることができる映画がこれなんだ。

冷たい海や雪の降る大平原を舞台に繰り広げられる淡々とした物語。シリアスな状況なのになぜか笑ってしまえるような、アイスランド人の持つ人生哲学がグッと伝わってくる。何というか、腹がすわっているんだよね。
見た後に「こんな世界観を垣間見れてよかった」って思った記憶がある。シニカルなようでいてどこか暖かい、一言で言えない不思議な世界がそこに描かれていたよ。
本屋を何周もまわって堪能し終わり、また小雨の中を目的地に向かって歩いて行った。さっきの本屋さんで聞いたら、近くにCD屋さんがあるって教えてもらえたんだ。

早速行ってみると、店内に入ってまずその品揃えの多さに驚いた。更に嬉しいことに地元のミュージシャンのCDが数多くあって、それを全部どれでも視聴することができるようになっていたよ。どれでもって凄いよね。後で調べたらこの小さなCD屋さん、世界でも有名なんだって。
その訳は、サービスの良さにあるらしい。店の奥に可愛い小部屋があって、ひとり一台のデッキとヘッドホンを借りられる上に、ゆったりしたソファーに座って好きなだけ視聴できるシステム。更にはなんとコーヒーまで運んで来てくれた。もう、今日みたいな日にぴったりな空間だよね。外は雨風が強くて寒い、おうちで過ごしたいようなこんな日にさ。
妖精トロールってこんなに大きいの?

私は音楽好きで、伝統音楽も昔から興味があってよく聞いてたんだけど、寒い国でも色々と違うんだ。例えば同じ島同士でもアイルランドの音楽は、家の中の暖炉の暖かさみたいに全体がホワッとしてて、寒い中に燃え盛っている火のような雰囲気。
そしてここ、アイスランドの音楽はシンとした深みのある寒さの中に灯る、ローソクのほのかな温もりといった感じでさ。ちょっと繊細さがあるというか、透明感がある。
だけど芯の火は弱くないんだ、むしろ凝固された強い意思がある。そう、ミュージシャンのビョークもアイスランド出身だよね。だけどまぁ、こういうのは個人的な感想だから人それぞれなんだけどね。

結局それから、1時間以上そこにいたんじゃないかな。とにかくたくさんのCDをひたすら聞いて、コーヒーを味わって…お気に入りのアーティストを見つけてCDを購入。エネルギー補充された私たちは、小雨の中また街に繰り出して行った。

そういえばさっき「トロール」に会ったよ。何のことか分かるかな?みんなが知ってるトロールといえばムーミン・トロール。そう、ムーミン谷に住んでいる彼らのことだよ。だけどムーミンはフィンランドで、ここはアイスランド。トロールって言うのは妖精の一種なんだって。この辺りの寒い国一帯に住んでいるみたいだよ。
そうそう、さっき会ったのはぬいぐるみのトロールで。実際に本物のトロールに会ったわけではないんだ、多分ホントに会いたかったら森の中に行かないとダメだろうね。私がさっき会ったぬいぐるみのトロールは、めちゃでかいぬいぐるみでさ、街路樹に背もたれて立っていたんだ。

身長は多分2メートル以上あるかな。けっこう迫力があるから初めて見たら驚くはず。本物のトロールってこんなに大きいのかなぁ、ちょっと怖いよ。ちなみに本の中ではムーミンって、電話帳くらいの大きさしかないらしいんだけど。
ムーミン一家の本もさ、面白いんだよ。彼らは家族みんな冒険が好きでさ、あちこち旅したりするんだ。それぞれが自由でいて、尊重し合って生活してる。とにかく個性が強いからちょっとしたケンカもするけど、基本みんな仲がいい。森の中でいつか出会ってみたいと思える素敵な生き物なんだ。アイスランドのトロールはどんなタイプなんだろうか。そんなことを考えながら街を歩く。
デザイナブルに生きるということ
そして今日最後の目的地、ハルパ・レイキャビク・コンサートホールにたどり着いた。ここは凄い大きなホールで、とってもデザイナブル。外観は一万枚の窓ガラスを幾何学模様に組み合わせてるんだって、EUから欧州の優れた現代建築として賞をもらっているほどなんだ。

その外装が夜になるとまるで、オーロラのように美しく色を放ってゴージャス。「ハルパ」っていうのはアイスランド語で妖精、古い暦では「長い冬を終えた後の夏の始まりの日」って意味もあるそう。
建物の中をぐるりと見て感じたことは、空間にある色んなものがとってもアーティスティックなんだけど、実用性はあまり重視してないんじゃないかってこと。

その辺がアイスランドと近代の日本と、真逆な気がするんだ。それは街中を見ていても感じたことで全体的に言えるような…実用性がそれほどなくても存在する「道具」たち。
だけど考えてみたら、アイスランドの人にとってそれは実用的なのかも。アーティスティックであることが「物」にとって必要なことというか。たとえ道具に道具としての機能がそこまで備わってなかったとしても、美しさとしてのデザインが優れていればそのこと自体が実用的。

これってさっきのアイスランド映画で感じた「自然観」とも共通する部分があるかも。描かれていた彼らの生き方にもどこかそういった所がある気がする。生命は流動するデザインというか、彼らの生き方そのものからアート性を感じるんだ。きっとアイスランドのダイナミックな自然から、そんな感覚が生まれてくるんだろうね。
ジョンレノン&オノヨーコからの伝言
帰りのタクシーでぼんやりと窓の外を眺めていたら、私たちの船が停泊している港近くに、白い光の柱が立っていた。「もしかして、ピースタワー!?」思わず窓ににじり寄り、雨交じりの景色に目をこらす。
ジョンレノンのパートナー、オノヨーコの意志の元に、アイスランドの小島に設置された「ピースタワー」。それは実際に形を保った「塔」ではなくて、前衛アーティストでもあるオノヨーコが1965年に書いた、「ライト・ハウス」という作品を表現した「光でできた塔」なんだ。

つまり特殊な光のビームのようなものが空に向かって立つんだけど、このイメージは生前のジョンレノンも深く関心を持っていて、彼の没後にオノヨーコが形にしたというものでさ。
平和な未来に対してのアプローチであるこの光の塔。塔には「世界最北に位置する首都(レイキャヴィク)から「平和の光」を発信し、世界を包み込む」という意味が込められているんだって。毎年ジョンレノンの誕生日から命日までの期間中、ずっとその光がレイキャビクで灯されることになっているんだ。

つい2日ほど前、ジョンレノンの誕生日の10月9日に、オノヨーコが点灯式のためにこの街に来ていたんだよってタクシーの運転手さんが教えてくれた。そんな平和の塔がピースボートのすぐ近くで強い光を放っているなんて、何だかとても象徴的だよね。
生きているものも、そうでないものも、トロールでも人間でも、実用的でも芸術的でも、共通してそこに存在するのは「意志」なのかも知れないね。その中から何が必要なのかをしっかりと選んで繋いでいくことができれば「希望」という流れになり、それが「未来」になり得るのかも。私たちの意思は、これから何を選んで行くんだろう。
嵐の前の雨風に押し出されるかのように、その夜アイスランドの「光る祈り」のたもとから、私たちの船はまた新たな世界へと出発した。
PHOTO GALLELY

演奏を聴いてみたいパイプオルガン

この筒の中はどうやらWC

この絵はまさにあの日の出会い

お洒落な扉を開けてみたい

やっぱりフォークはこのスタイル

アイスランドはハイセンス

「TE & KAFFI」

アイスランドのようなブルー

建物は結構カラフルだった

右上にはビョークの写真も

雨降りのこんな日はカフェがいいね
(取材・文・写真/Hinata)
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