その数日後。アイスランド周辺で観測できるというオーロラ、船の上にいるみんなの意識は完全にそこに集中していた。出るかもしれないし、出ないかもしれない。きまぐれな生き物のようなオーロラの存在は、だからこそ希少だ。
オーロラの姿を一目見たいがために、飛行機に乗って遠い遠い旅の果てにアイスランドにたどり着き、寒い中頑張って待ってみたけど結局見ることが出来なかった…そんな話も珍しくはないようだ。噂に聞くオーロラは、カーテンのようにたなびくらしい。漆黒の大空に揺れる光のカーテンを、心の中に思い浮かべながらその日がやってくるのを心持ちにしていた。
船の上では、スタッフでオーロラ観測チームが組まれているという噂。彼らはこの極寒の中、ひたすらデッキでオーロラの姿を探すという驚きの任務を黙々と続けてくれていたらしい。その甲斐あってアイスランドに近づいた1日目に、私たちはその希少動物のようなオーロラを目にすることが出来たんだ。
夜、まだ寝るには少し早いかなと思う頃に、「オーロラが出現しました」と船内放送が流れ込んできた。船室でそれぞれにゆっくりした時間を過ごしていたかと思いきや、勢いよくキャビンから飛び出してくる人々。「船内は走らない」というルールがまるで存在しないかのように、カメラ片手に雪だるまのような重装備で駆けていく。私も負けじと丸々した格好でみんなの後を追っていった。
真っ暗なデッキに人が影になってうごめいている、その隙間をぬって正面にあるはずの光のカーテンを探す。えーっと、何かモヤっとしたものは見えてるんだけど、あれじゃあないよね。目の前に白い、カーテンには程遠い壁のようなものが見えている。
とりあえずシャッターを押してみると、おおっ、写真に写ると黄緑色に変化しているぞ。どうやらこれはオーロラらしい。予想とは違った感じだけど見れたことにちょっと喜びながら、友人とオーロラをバックに写真を撮りあう。よし、オーロラ見たぞ!その夜は満足してキャビンに帰り、すぐに眠った。
次の日の夜にまた、オーロラの船内放送が入った。昨日より時間もだいぶ遅かったし皆もう満足してしまったのか、私が部屋を飛び出した時には昨日のような雪だるま大会はなかった。せっかく走ってみようと思っていたのにちょっと残念、遠慮がちに競歩ほどのスピードでデッキへと向かってみる。