そして、クジラと出会ったのは。今回の旅で初めて、予感に従い望遠レンズの一眼レフカメラを持ってデッキに上がった、まさにその時起こった出来事だったんだ。
その日はあいにくの空模様で。お昼をだいぶ過ぎた夕方近くの、陽が傾き出した頃にようやく外に出てみた。目の前にはいつもの海、そしてアイスランドの大陸が横に長く伸びるように広がっている。
アイスランドの大地ってさ、実はとってもカラフルなんだよ。雪の景色で真っ白でしかないイメージを持ってたから、大地のピンクっぽい色や黄や緑の混じった大地の色をみて驚いた。デッキ一面にこの大地を眺められる幸せ感。綺麗だねって言い合いたい、だけど周りには誰もいない。
この時は主なフィヨルドも通り過ぎてしまって、みんな船の中でゆっくりしてる時間帯だったんだ。確かに天気も余り良くはないし、外はかなり寒くてカメラを持つ手も感覚がなくなってきてた。少し離れた場所に、カメラを持ったおじさんがひとりポツンといるだけ。
陸の手前に可愛い灯台が見えてきたからシャッターを押して、クジラちゃんそろそろ来ていいよって心の中で呼びかけながら遠くの沿岸を眺めている時だった。
プシュって、潮吹きがひとつ。あっ、その近くにもまたプシュ。小さな噴水程度だから見逃しそうになりながら、あの辺りに絶対いるっていう確信をして凝視し続けてたら、黒い体がゆっくりと海面に出てきて、滑らかにまた海に潜ってった。
少しちっちゃい体、こどものクジラだ!船から遠く離れたアイスランドの陸に近い場所でちらほら、交互に遊ぶように体を浮かせては沈んで、ハート型の尻尾をパタンと揺らしてここだよって合図してる。
カメラ持ったおじさんに「クジラいたよ!」って海面を指さしながら、自分も集中して望遠レンズの向こうを再び凝視する。そんなクジラの姿を探しながら、思い出してたことがあった。