折れ曲がった狭い路地が続く。ヨーロッパの建物はみな大きく、どの路地も空が遠い。目指す場所を、細かいその地図からは探し出せないままに時間だけがただ過ぎていく。
よし、と思考を振り切って潔くカバンに地図をしまい込んだ。警備している警察官や道行く人に尋ねながら、まるで宝探しのゲームのように歩みを進めるのも楽しいものだ。地図をしまうと目の前の景色がよく見える。
あ、今ちょうど欲していたもの発見。吸い寄せられるようにしてお店に入っていくと、爽やかな笑顔を浮かべた素敵な夫婦が迎え入れてくれた。店内はシンプルで無駄がなく、ショーケースには厳選されたジェラートが数種類だけ入っている。きっと美味しいんだろうなっていう予感がするお店だ。
ピスタチオとティラミスの2種類のジェラートを選ぶと、そこに丸く薄いワッフル型スイーツが付いてきた。一口づつ味見してみると、予想通りやっぱり美味しい。ジェラートはナチュラルな色で、ケバケバしくなく変なテカリもない。見た目そのままの素朴な手作りの味だ。
お店の奥さんは日系の血が混じっていてサッパリ顔、旦那さんはどうやら地元バルセロナっ子の様子。モデルのようにスラリとした印象の美しい夫婦。彼らが醸し出す雰囲気は空間に影響を与え、そこにあるもの全部を良質なものにしているかのようだ。接客のやり方も、話し方も、もちろん味も、彼らから出てくるものは実際に見たままのセンス良いものだった。
そこにいる人の在り方が、その周りの世界の質を変化させているんだなあって納得したよ。きっとジェラートを作る時も、ふたりで楽しく作ってるんだろうなって想像がつくくらいに、可愛いような幸せな空気がそこに流れていたんだ。
じっくりとジェラートを味わってから、地下鉄探しを再開して当初の目的地へと向かう。行く先はそう、あの有名な「サグラダファミリア」。アントニオ・ガウディというアーティストの代表作であるその建物は、彼が没した現在もなお作り続けられている、未だ完成しない名作だ。