土台を作る作業は思ったより慎重で、3段ぐらいまで作れていても、少しでも不安定さがあるとやり直す。その慎重さはしっかりと先を見据えてのものなんだ、一番てっぺんに登るのは小さなこどもだからね。どうやら今回は失敗のようで、タワーはチャレンジ半ばで形を解いた。
次のチームはどうやらうまく土台が作れたらしく、ラッパのメロディーは次第に大きく音を重ねていった。会場にいるみんなが同じように上を見上げている。その視線の先には、広がる青空に向かいひたすら連なっていく大人たち、そしてその背中にへばりつくようにして登っていく幼いこどもの姿があった。
迷いなく淡々と登り進んでいく姿からは、落ちるかもしれないという恐怖はこれっぽっちも伺えない。練習では落下を経験しているはずなのに何でだろう。あっという間にスルスルと上までのぼりつめ、最後にはてっぺんで小さな片手を天に向かって振り上げたんだ。
割れんばかりの拍手が鳴り響く。会場内のどの人も、嬉しいのとホッとしたのが混じったような顔をしていている。まるで自分の仲間が戻るのを待ち受けているかのような表情で、人々が降りてくるのを穏やかに見守っていた。
だけど。成功だけとは限らないのがこの世界。次のチームのチャレンジが始まり、同じように天高く伸びていくかのように見えた塔…こどもたちがあと少しで頂上に達しようとしていた矢先に、ガクガクとした小さな揺れが次第に大きくなり、上の塔から全部が一気に崩れ落ちた!
思わず目を背けそうになりながらも、こどもの行方を凝視する。大人たちに受け止められてどうやら大丈夫なようだ。他にケガ人もなさそうでひと安心。だけど10mの高さから人々が落ちて来るんだから、やっぱりすごい危険な競技でもあるんだよね。
でも、その時に分かった。何でこどもたちが恐怖を感じずにのぼっていけるのかを。崩れ落ちた塔は下にいる土台の人々だけでなくて、その周りを囲んでいる数多くの仲間たちによって受け止められていた。
落ちてくるという現実を想定してちゃんと準備した上で、この塔は作られていたんだ。こどもたちは練習で何度も落ちているんだろうね、けどその度に仲間たちに受け止めらる、その感覚を知ってるからだろう。だからあんなにも堂々としていられるんだ。この人間の塔は「完全なる信頼の証」としてそこにあった。
「落下を受け止める度に信頼は深まる」というシステム。人間タワーはどこか、失敗してもみんなが助けてくれる地域社会を型どっているかのようで、大きな愛を支えにチャレンジし続けることができる、そんなバックグランドがここにはあると感じさせるようなものだった。
緊張が解けて徐々に心がほだされていく。そのまま興奮冷めやらぬ会場を後にし、人混みを押し分けながら地下鉄の駅へと向かった。