ドゥオモの中をチラ見しながらも、また勢いよく階段をのぼり始める。素晴らしい感動的な場面に出くわすためには、ある程度の努力も必要だよね。エレベーターでスッと行くのと階段を苦労してのぼったのとでは、到着後の感動の度合いはきっと変わってくるだろう、と思いたい。確かにさっきは感動したしね、汗かきながら頂上に着いた瞬間なんて特にさ。吹きそよぐ風も格別だった。
もう一度あの感動を!と、またロボットと化して階段をのぼる。今度は464段、さっきの階段よりキツめの様子。途中、もうダメだ~ってなった私の手を友人が引っ張る状態になり、お世話かけますと手を引かれるままにひたすら進む。足を何度かつりながらも、待ち望んだゴールへあと一歩。そして…
頂上に踏み込んだ瞬間、目の中に黄金の光が飛び込んできた。遠くにある山並みにちょうど、夕日が沈むところだったんだ。その光はさっきまでのぼっていた教会の展望台を後方から照らし、フィレンツェの街の至るところを黄金に染めていた。やばい、綺麗すぎる。そしたら今度はその教会の鐘が、荘厳な音色で鳴り始めたんだ。
圧巻…!大迫力の音は体を打つほどに響き渡り、まどろんだ意識を覚醒させた。眼下に広がるフィレンツェの街並みは美しい光に包まれ、風は体に巻いたショールをはためかせてから山の方へと吹き抜けていく。
あまりの光景に思わず目が潤む。大きく何度か深呼吸して身体中にその空気を取り込んだ。展望台を見渡すと、誰もが同じようにその光景を言葉少なく眺めている。感動を共有できる素晴らしい時間。
そういえば今私たちがいるのは、さっき眺めていたドゥオモの屋根の展望台だ。想像したこともなかったよ、いつか見たその景色の中に自分が立っているなんてさ。人生いつ何が起こるかなんて誰にもわからない。
完全に満たされきって、展望台を後にする。階段を降りる足取りは心なしかさっきよりも軽くなっていた。途中、教会の中をぐるりと通って壁画を改めて眺めながら下っていく。そして広場に到着する頃には、もう夕日も落ちて街はゆっくりと夜に向かっていた。