のぼり始めたのは、赤茶色のドーム型の屋根がある建物…ではなく、それを真正面に見ることができる教会の展望台の階段。結構急で狭い階段をひたすらのぼり、上から降りてくる人を通してはまたのぼり。だいぶたってから、これは最後まで行けるのだろうかという不安が。
よく考えると、私の靴はハイヒール!何やってんのと自分で突っ込みながらも、もう遅い。とにかく勢いだけで行ったっていうか、情緒も何も、記憶もないかな。とにかく右足を一歩、左足を一歩…足を動かすと自動的にのぼっていくロボットのようになっていたよ。
そんなこんなでひたすらゴールを目指し、あともう少しで頂上ってとこまできた。残りの階段を3、2、1とカウントダウンしながら最後の一歩を踏み出すと…
瞬間、風がふわあっと顔をなでて通り過ぎて行った。目の前に現れた景色はホントに想像通りの、いやそれ以上の美しい街並みが、パノラマになって広がっていたんだ。遥か下の街からは楽しげな音楽が微かに聞こえてくる。やっぱりここまでのぼって来た甲斐があるよ、だってこんなに最高の空間に来れたんだからさ。
教会の鐘が遠くで鳴っているのが聞こえる。息はまだ上がったまんまだけど、耳を研ぎ澄まして聞いていると心が自然と静まっていく。白い建物に赤茶色の屋根が印象的な街は、光の具合によって時刻ごとにその表情を変えていくようだ。
私たちが着いた直後は青空に真っ白な建物が映えていた。それから半時間くらいかな、景色を眺めている間に空が夕方の色になってきて、いつか見たあの黄金の街がそこにゆっくりと現れ始めたんだ。
教会の鐘がまた鳴り始めた。この街にはきっとたくさんの教会があるんだろうな。そして人々は一日のうちに鐘の音色を何度も聴きながら、ここでの日々を暮らしているんだろうね。
ロマンチックな気分に浸りながら、ふと時間が気になった。正面に見えるドゥオモの赤茶色い屋根、その展望台にのぼるタイムリミットが迫っている。早く行かなきゃ閉まっちゃうよ。ここの景色に後ろ髪を引かれながらも、階段を降り始める。のぼりよりはやっぱり楽だね、スルスルと階段を駆け降りてあっという間に広場へと到着。回り込んでドゥオモの入り口へと駆け込んだところ、なんとかギリギリセーフで中に入れたんだ。