小さなダンボールから手に取ったのは、幾つかの飴玉が入った小さな袋。それを席の端っこに座っている人から順番に無言で配り始めた。えっ、かなり怪しくない?なのにどの乗客もさ、なんか反応してよってこっちが思うくらいに普通に飴玉を受け取るだけ。しかも無表情、何だ~この感じ。おっと、こっちにやってきたぞとちょっと緊張するのも束の間、同じく私も友人も有無を言わせず飴玉の袋を渡されてさ。こうなったらとりあえず、飴玉をじっと見つめるしかないよね、もう。
周りを見渡したら、みんな飴玉を手に持ったまま何のアクションもなし。飴玉を配り終えた彼も、ドアの手すりにつかまったまま外を見てじっと動かない。
えっと、食べていいんですかこれ?お菓子を手渡されたらまず袋を開けたくなる衝動ってあるよね。ちょっと怖いような、でも気になって仕方ないってウズウズしてたら、また次のリアクションが…
さっきの男の子が、これまた手際よくみんなのお菓子を回収し始めた!そしてみんなも、これまた彼に普通に飴玉返しているよ~?頭の中はハテナマークでいっぱいだけど、みんなの表情があまりにも無表情すぎてさ、このシュール過ぎる空間に笑いがこみ上げてきて吹き出してしまった。
まぁ彼は一体何だったのかというと多分、簡単に言えば物売りってか道売り?いや、電車売り?しかも半ば強制。だけど商売が成立するかしないかは、受け取った側が袋を開けるか開けないかの瞬間にあるんだよね。開けちゃったが最後「はい、まいどあり」ってな感じでさ。世の中、色んな商売方法があるんだね。
インパクトが大きかったブエノスアイレス…鮮烈に記憶に残ったのは妖艶なタンゴと、じっと見つめた飴玉の記憶だった。