幅允孝
インタビュー
2016/04/20
INTERVIEW Vol.5
幅 允孝
HABA Yoshitaka

ブックディレクター・幅允孝さんが紹介する
読んで楽しむ南半球!(2/2)

サモアが舞台の洒脱な短編「雨」

船内で本を読むときは、物語の世界観にどっぷり浸りたいこともあると思います。そんな場合は、ウィリアム・サマセット・モームの短編小説「雨」などはいかがでしょう。今回のクルーズで訪ねるサモアが舞台で、登場人物は船の乗客一行です。彼らは、やむを得ぬ事情である島に滞在します。

 一行の中の一人、デビットソン宣教師は、責任感と正義感にあふれる人物。ところが、ある素行の悪い女性と会うことから、理性が乱れ始めて……。思いもよらぬ出来事が起こるのです。
 物語の中では、湿った雨がずーっと降っています。その雨が、人の内面に溜まっている重いものを少しずつ動かして、事件が起きる。しかし、理由は描かれていません。事件の真相は読者の想像に任せる、余白たっぷりの洒脱な名作です。


ウィリアム・サマセット・モーム
新潮文庫刊
熱心に布教活動をおこなう宣教師は、船で任地へ向かう途中、同行者たちとともに南洋の島に上陸する。そこで、一人の女性に会い、彼女の品行を正すべく動き始めるのだが……。舞台地サモアに降り続ける“雨”が物語の鍵となる、短編小説の傑作。

南米の歴史が作ったラテン文学の世界

 南半球に関係する本を選ぶとしたら、ラテン文学は外せませんね。なかでも、ラテン文学の代表作家ガブリエル・ガルシア=マルケスは私も大好き。彼の作品にはすべて、その地に代々暮らしてきた人たちの孤独感やエネルギーが詰まっています。心打たれるものばかりですが、今回は敢えて彼の小説以外の作品をおすすめしたい。

 その名も、『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』という題名のスピーチ集(笑)。大のスピーチ嫌いの彼が、17歳から80歳までの間に仕方なく引き受けたスピーチが収録されているのですが、言葉のひとつひとつに魂がこもっていて、彼の小説世界の背景を垣間見ることができる。彼の書く物語と呼応する言葉が詰まっています。

ぼくはスピーチをするために来たのではありません
ガブリエル・ガルシア=マルケス
新潮社刊
 大の講演嫌いだったというガルシア=マルケスによるスピーチ集。当時17歳だった本人が卒業生に贈ったスピーチをはじめ、2007年にスペイン国王夫妻の前で読み上げたものまで、全講演22篇を収録。大作家の思想の背景に触れることができる、貴重な一冊。
 ガルシア=マルケスがラテン文学の第一人者だとすれば、現代で最も注目すべき南米の作家は、ジュノ・ディアス。彼が書いた『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』は、実にユニークな物語です。

 主人公の青年オスカー・ワオはドミニカ人なのですが、住んでいるのはアメリカで、だけど、日本のアニメオタク。そんな彼が、祖国のドミニカ共和国で過ごすことになります。そこで初めて自分のルーツを知り、アイデンティティに目覚めていくストーリー。ラテン文学とオタク文化が混ざり合った、まったく新しい世界観の傑作青春小説です。

オスカー・ワオの短く凄まじい人生
ジュノ・ディアス
新潮クレスト・ブックス刊
 主人公は、日本のファンタジー小説やロールプレイング・ゲームに夢中のオタク青年。英語とスペイン語、オタク文化のミックスによる新分野の傑作長編は、英米で100万部のベストセラーを記録。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞をダブルで受賞した。
 今回ご紹介した5作品を読むと、多様な観点で南米を感じ取れると思います。さらに、本というものは一期一会の世界なので、いつ、どこで、どのような状態で読むかによって、受け止め方はまるで違う。不思議なことに、一冊の本であるにも関わらず、二度と同じようには読めないものです。

 ですから船内で読んだあと、帰国後も読み返してみると、新たな発見があります。そうすると、“自分だけの南米観”がより豊かに形づくられて一生忘れられない旅になるかもしれません。

(取材・文/田中亜希:キクカクハナス 写真/ピースボート、鈴木省一、梶浦崇志)
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