心配になって入り口付近を見ていると、少し険悪な雰囲気で話しながら彼らがこちらに戻ってきた。どうやら彼のラム酒のボトルがどこかに消えたらしい。私たちが楽しく踊っている間に、誰かがどこかへ持ち去ったようだ。
実際の犯人が誰なのかは分からないけど、近くにいたのは確かに彼らだけだから怪しいといえば怪しい。一触即発の雰囲気の中、私たちの門限も伴って、とりあえずそのまま帰ることになった。
彼は腑に落ちない顔をしている。ここまでタクシー代やボトル代を払ってくれてた彼。こんなキューバ人もいるんだと思って驚いていたんだけどさ、突然のアクシデントでちょっと落ち込んでいて可哀想だったかも。
私たちは帰りの出口で入場料を彼に払って、帰りのタクシーも私たちで払い、感謝の言葉を伝えた。彼の様子もようやく落ち着いてきて、平常を取り戻したようだった。
アクシデントもありつつ、ちょっとしたスリルも交えて楽しめた夜。私たちだけでは経験することができなかったキューバの一面を、リアルに見せてくれたことにも彼に感謝だ。たった一日だけの滞在だったけど、何とも濃厚なキューバだったな。
キューバには古い街だけでなく、サトウキビ畑やコーヒー園、広大な湿地帯や南国的リゾートなどもある。私はキューバを体感したと言っても実際は街の一部に滞在しただけで、もちろんリアルキューバを全て知ったことにはならない。
だけど、彼らの生活の片隅にチラリと入り込んでいくことで、何となくその国を感じ取れるものもある。この世界の中で違った今を生きる私たちの時間を、同じ場所で共有できたっていうその感覚を持って帰りたいんだ。それはきっと私の中にある軸に絡まって、その軸を太く力強くしていってくれるんだと思う。