えっ、えっ!?勢いよく上まで伸びきったかと思うとその柱のようなオーロラが、ふわりと扇子のように左右に開いていって、あっという間に天空いっぱいにグリーンの光が覆い尽くしたんだ!
もうそれからは、めくるめくオーロラ世界…光のカーテンはあちこちでたなびき、眩しいほどの明るさで揺れている。さっきまでと違って光が強すぎるくらい、満月より明るいんだ。だけどカメラの機能をいじって調整している場合じゃないよこれ。とにかくひたすら写真を撮りながら、同時にカメラから目を離してそこに繰り広げられた世界を凝視する。
あちこちで悲鳴のような声がしきりにあがっている。もう凄いねっていうレベルじゃないんだ、悲鳴にしかならないよ。オーロラを探す為に乗船してくれていたアイスランドのガイドさんが、「ようこそ、アイスランドへ!!」と感極まった声を響かせている。
階段の下からは押し合いへし合い、声をあげながらデッキに上がってくる人々の群れ。ホントにこれ、夢じゃあなくて?信じられないと思う反面、この寒さはどう考えてもベットの中じゃあない。ほんの数分間の夢のような天体ショーが終焉する頃には、閑散としていたデッキのそこら一帯が、真上を見てぽかんと口を開けたままの人の群れで埋め尽くされていた。
「こんなに遠くまで来た甲斐が、あったねえ」穏やかな声でじんわりと話す声が、隣から聞こえてくる。私の隣で、半時間前から私と同じく足が動かなかった人たちだ。「ホントに…来て良かったねえ」老夫婦の会話は、私の心に深く響いてきた。年老いた人たちにとって、世界一周の船旅は決して軽々しいものではない。住み慣れた街を長く離れる決心をして、不安を置き勇気を持って船旅に来ている。それを知っているだけにこの言葉は、重くて深い。
遠くまで来た甲斐が、あったねえ。心の中でその言葉を繰り返してみる。凍えるほど寒いはずなのに、ふわりと暖かいような心地になってきたのが不思議。
ゆっくりと両手に温度が戻って来たのを感じた私は、頭を覆うショールを外しながら真上を見上げて、360度に広がった奇跡のようなオーロラを、もう一度思い出しながら心に深く焼き付けたんだ。
(取材・文・写真/Hinata)