今から一年ちょっと前、沖縄でクジラツアーに行ったことがある。その頃はシーズンももう終わりでツアーも最終日近く、ちょっと見られない可能性があると言われながらも、もしかしたらという気持ちで小さな船に乗り、慶良間沖に向かったんだ。
沖縄にクジラが来るのは冬の間だけ、そして私が会いに行った時は寒い場所に向かってクジラが帰る頃だったのだけど、思いがけず、奇跡のようなことが起こったんだ。クジラの親子3頭が私たちのすぐ近くまでやって来ただけでなく、こどもクジラが私たちに興味を持ったらしくてさ。すぐそばにやって来ては、船の下をくぐったりしてしきりに遊んでいた。
手を伸ばすとあとちょっとで届く、そのくらいの距離にいたクジラたちはやがて、大きく体を方向転換して島の向こうへと去って行ったんだ。その時、遠く過ぎ去っていくクジラの片手が大きく宙を切った。私にはそれが「またね」って合図に見えたんだ。
そして今。アイスランド沖の海の向こうから、クジラのこどもが尻尾でパタリと合図している。望遠ズームでようやく尻尾の形がわかるような距離だけど、何度も繰り返し、こどもクジラたちは潜ったり出てきたりしている。ちょっと目頭が熱くなってきたぞ。
そんな奇跡がまた目の前で繰り返されていることに、寒さも時間も全部がごっちゃになってホワイトアウトしそうだよ。なんとか意識を保ちつつもシャッターを切る。来てくれたんだね、出会えることを知っていた気がするよ…心の中でいっぱいになった想いをクジラのこどもに投げかける。
不思議なんだけどさ、こどもクジラって遊び心があるからなのか、何だか心が繋がりやすいように感じるんだ。だからこうやって自然と話しかけてしまう。そしてその後、何度か場所を変えて現れては潜りを繰り返し、クジラのこどもたちは幻のようにどこかに消えてしまった。ほんの束の間の出会い…それはホントに短い時間だったけれども、私には長い時を超えた約束の出会いだったような気がしたんだ。