晴れ渡った青空の下には、爽やかなターコイズブルーの海が色柔らかく穏やかに広がっている。海のブルーの種類は日本とはまた違っていて、グラデーションのどれもが水色ベースな優しい色。そんな何層もの色が美しく全体を彩っている海に小さな船が気持ちよさげに浮かんでいる…何だか夢の中のような光景だよ。
丘を更に奥に進むと、小さな広場にたどり着いた。さっきの眺めと同じくターコイズブルーが眼下に広がるその場所には、緩んだ心が突然キュッと握られるような、違和感あるものが置いてあった。
楽園に不似合いな古びた黒い大きな鉄の物体。そう、砲弾だ。第二次世界対戦時、日本軍を迎撃するために設置されたという。今、改めてここで見ると違和感のかたまりでしかない。幸い未使用で終わったという話だけど、時代が違えば私たちは標的となる存在だったなんて…こんな楽園のような場所にも闇はある。
丘の上でゆっくりと過ごした後は、真珠を加工している工房に行ったり、パレオを手染めしている工房にもお邪魔した。
手塗りされた布は優しい色合いで、タヒチの日射しに美しく透けている。描かれている風景も素朴で、柔らかなタッチのデザイン。昨日パペーテの街で見た原色のパレオとはまた全然違っていたんだ。同じタヒチでも、やっぱり街と田舎とで雰囲気が変わってくるんだね。
そういえばパペーテはあちこちお店だらけだったよ、ここボラボラ島では港周辺にまとまって何軒かあるだけ。きっとパペーテも昔は、ここのような素朴な島だったんだろうな。今じゃあお洒落で値段の高いレストランや、高級ブティックもあるようなちょっとした街だ。
ゴーギャンが絵に描いていたタヒチ…残念だけど今のパベーテの街にその空気感は見いだせなかった。もしかしたらボラボラ島のどこかにはまだ、その頃のタヒチの欠片が残っているのかも知れないけどね。
ボラボラ島はこじんまりとしていて小さく、その中程に象徴的に岩山がひとつそびえ立っていた。
聖山のような貫禄のあるその山は島のあちこちから見えていて、まるでその山の頂から島全体に薄い透明な膜を広げているかのような存在。何て言えばいいんだろう、それはどこか島を隠しているようにも感じられて…
人々は守られている、この島に。そして委ねているんだ、生きることの全てを。そう思えるような不思議で境目を感じないような一体感がある…集落の外れの塀にもたれかかっていた少女の姿を見た時に、ふわりとしていたその感覚は、きっと間違っていないという確信に変わった。