遥か昔、ここでは常に戦いがあった。部族間同士の長い長い戦いの末に、大地は荒れ木々は消え失せていった。それでも部族の権威を高めるために、人々は祭祀に使うモアイを盛んに立て続けてきた。そんなことがこの場所でずっとずっと繰り広げられていたんだ。
信仰がなくなり形だけになった今では、モアイに昔ほどのエネルギーはないにせよそれは完全に消えてはいない。それは未だ大きく見開いた彼の目を見れば分かるはずだ…
なんてね。そんな妄想をしながらモアイを眺めていると、私は今どこにいるんだろうって一瞬見失ってしまうよ。そんな感覚がまた、実際に行ったからこその面白い体験なんだけどね。
モアイは島のあちこちにあるので、それを見るためには車で島の色んな場所を駆け抜けることになる。時折、野生の馬が集団で生活しているのが見える。いつの時代からこの島に馬が現れたのだろうか、天敵もいないここは彼らにとって楽園なのだろう。
馬も私たちも生きる場所を与えてもらっている。大地から。ホントにそれだけに過ぎない小さな存在なんだ。どれだけ争って場所を求めても、最後にそこに残るのは朽ちたモアイだけ…島は何も言わず、その風景をただただ見せてくれた。
ラパヌイに到着する何日か前から、私たちの船にはラパヌイ出身のダンサー「ロサ」が乗船していた。彼女が水先案内人(※)としてラパヌイの伝統的なダンスや、モアイについての伝説などを講座の中で教えてくれていたこともあって、私たちはラパヌイに対してかなり親近感を抱いていた。ロサは地元の伝統を守っていく団体「Toki」のメンバーでもある。彼女は色んな知識を私たちに教え、この島と繋げてくれたんだ。
(※)水先案内人…ピースボートの旅の中で、その時々の行く先に関わる各界の専門家やアーティストが「水先案内人」という名前で船に乗船し、乗客が旅をより深く楽しめるように船内で様々な講座やワークショップを開いている。
実はラパヌイにはモアイだけでなく、興味深いものがいくつかある。
ラパヌイの国旗に描かれている「レイミロ」という紋章は、女性が首から下げる首飾りが原型になっているんだ。実物のレイミロの両側にある模様はふたつのビジョンを示し、真ん中には象形文字がたくさん刻まれている。過去の記憶を彷彿させるそのシンボルには、島のルーツ的なものを紐解くヒントがありそうだ。
やがてモアイの時代が過ぎて、そこにまた新しい信仰ができた。