File no.3
古橋佑典さん 31歳
「ゆーてん」と呼ばれる古橋佑典さんは焼けた肌と底抜けに明るい笑顔が印象的な31歳。彼の周囲にはいつも人が多く集まっていて、しかも皆笑顔。それだけの魅力が彼にはあるのだろう。
もともと世界一周をしてみたい、という思いがあったという古橋さん。しかし大学在学中、原因不明の難病に冒されてしまい、夢であったバックパッカーによる世界一周を断念。
それでも思いを断ち切ることはできず、「話だけでも」という気持ちで2010年にピースボートセンターへ足を運んだことが乗船へのきっかけとなった。人好きな性格ということもあり、何度かピースボートセンターへ通っていれば親しい友人ができるのは当然のこと。乗りたいという気持ちはより高まったものの、病気というハードルが乗船を阻む。
一度は諦めたものの、その3年後、乗船への気持ちが再燃し、再びピースボートセンターへ通うことになったという古橋さん。その時には薬で症状も抑えられるようになっていたことから、かなり具体的に話も進んでいたが、タイミングが合わず再び乗船を諦めることとなる。ただ、この時点で「世界一周するならピースボート」という気持ちは確固たるものとなった。
そのまた3年後にあたる2016年の1月、ピースボートのウェブサイトを見ていた古橋さんは同年12月出発の第93回クルーズが南極航路だということを知る。実はピースボートの南極航路はこの後の予定がなく、これを逃すと数年、もしかしたらそれ以上、南極を周遊できないということになる。さらに以前ピースボートセンターで親しくなった友人も乗船するかもしれないという。三度目の正直。古橋さんはようやく乗船を決意した。
乗船までに数年を費やしてきた古橋さん。いざ出航し、船が離岸する際には今まで乗船できなかったことへの悔しさと、何よりようやく世界一周できるという喜びで涙が止まらなかったそうだ。
「人と人、縁あって一緒に乗れたわけですから」と嬉しそうに話す古橋さんは、同部屋の友人と共に船内サウナ部を結成。水先案内人と呼ばれるゲストも巻き込み、いかに毎日を楽しく過ごすかということにとにかく貪欲だ。病気を理由に世界一周を決して諦めなかった、彼の今回の旅への思いの強さが伺える。
トラベラーズ・ボートのメンバーとして活動して約一ヶ月。これからは「自分で思いを文字にして発信し、それによって心を動かされる人がひとりでもいれば嬉しい」と話すが、心を動かされている人間はすでに大勢いることだろう。
(文/大門美奈 写真/大門美奈、片岡和志(船体写真))