デッキから何もない海を眺める時間が好きでした
――思い出深い寄港地はどこですか?
浅野 最初の寄港地であるシンガポールで、印象的な出来事がありました。どうしても「アイラブシンガポール」のTシャツが欲しかったのですが、私に合うサイズがなかったんです。そうしたら、一緒にまわっていた人たちが、街中を走り回って探してくれて…。まだ知り合って間もない私のために、こんなに一生懸命になってくれるのかと、すごく嬉しかったです。なんて良い人たちなのだろうと感動しました。
浅野 あと、ベネズエラが良かったです。海外にあまり興味がなかったわたしは「ベネズエラ」という国自体知らなくて、まったく期待していなかったのですが、予想に反して最高でした。まず、途中で乗船してきたエル・システマの人たちと過ごした一週間。音楽を教えてもらったり、演奏を聞いたりと音楽を通した交流がすごく楽しかったです。ベネズエラに着いてからも皆めちゃくちゃフレンドリーで。スラム街の、日本にはない鮮やかな色彩もすごく印象的でした。他にもギリシャのパルテノン神殿とか、ドイツの列車とか…。言い出したらきりがないほど思い出深い場所はたくさんありますね。
エル・システマ
犯罪率減少を目的に始まったベネズエラの音楽教育プログラムで、世界的に活躍する音楽家を多数輩出。音楽を通じて協調性や規律、目標に取り組む姿勢などを学び、生きる希望や誇りを持てるように子どもたちを導く。現在、その活動はベネズエラにとどまらず、世界中で展開している。
浅野 でも一番好きだったのは、デッキから海を眺める時間です。ピースボートに乗っていると、寄港地で出会う現地の人や、一緒に世界を回っている乗船者たちからいろいろな刺激を受けます。若いのにしっかりと意志を持って行動する人や、全然時間を守らなくても気にしない大らかさが魅力の南米の人たち、今まで会ったことのないような人たちがたくさんいました。感じ方、考え方なんて本当にたくさんあって、私のものごとの捉え方って狭いなぁと思いましたね。海を眺めていると、そういう生き方みたいなことを、改めてじっくり考えてしまうんです。そんな時間がとても好きでした。
行きたいと思ったときが世界一周に行くタイミング
――世界一周の前と後で、自分が変わったと思いますか?
浅野 変わったと思います。前は仕事でもなんでも「こうでなきゃ!」みたいな決め付けが強くて、その枠にハマれないがために自分を追い込むタイプだったのですが、旅で多くの考え方や生き方に触れることで、その幅が広くなったように感じます。「これでいいんだ」と自分を認められるようになりました。
――仕事は看護師に戻ったそうですね。
浅野 船で出会った、情熱を持って行動している人たちに刺激を受けて、いま自分にできることは何かなと考えたときに、資格もあるし、やっぱり看護師かなって。ただ、以前のようにただひたすら働くだけっていう風になるのは嫌なので、残業の少ない勤務先を選んで、休みも充実させられるようにバランスをとっています。旅に行ったことでもっといろいろなことを見たい、体験したいという思いを持つようになって、無趣味で無関心だった私が、今はやりたいことリストをつくって、それをひとつずつ消化するのが楽しみになっていることに自分でも驚きます。仕事でも、もともと興味のあったメンタルヘルスの方面に進みたいという目標を持つようになりました。
――また世界一周に行きたいですか?
浅野 今度は南米をグルっと一周まわってみたいですね。ベネズエラ以外も南米は人が暖かくて、どこもすごく楽しかったので。民芸品もカラフルでかわいいし(笑)。世界一周にまた行くかどうかは分からないですが、もし行きたいと思ったらそれが行くタイミングなので、そのときの自分の思いに従って生きていこうと思います。
(取材・文/太田史郎 写真/千賀健史、ピースボート 写真提供/浅野紅子)