12月9日の朝、OCEANDREAM号は横浜港に錨を下ろしていた。
ベイブリッジを背景に、真っ白な船体は青く晴れ渡った空にそびえ立ち、赤い煙突にPEACEBOATの文字。
ベイブリッジを背景に、真っ白な船体は青く晴れ渡った空にそびえ立ち、赤い煙突にPEACEBOATの文字。
船は、数時間後に世界一周へと出航する、その時を静かに待っている。
その頃、パッセンジャーの1人であるわたしは、巨大なスーツケースとバックパックで通勤中の人々に大迷惑をかけながら、「日本大通り」に向かう電車に揺られていた。
車両に詰め込まれた、いつもの金曜日。
世界がいつもの週末を迎える中、私と、同じクルーズを選んだ約1000人の人びとだけが大海原に漕ぎ出し、3ヶ月半帰ってこない。そのことを頭ではわかっているけれど、なんだかピンとこない。
この日を迎えるまでに、何度もたくさんの人に
「世界一周の船旅に出かける」とか「衛星インターネットというのがあってそれで一応連絡はとれるけれども云々」とか
「南極やイースター島やブラジル、アルゼンチン、そういえばマダガスカルや、タヒチにも行くんだ」とか言ってきた。
けれども、それが他人事で、本当のところ何が始まるのか、全くわかっていないことに気づく。
日常を離れることだけが決まっていて、そのための準備に体力気力を使って向き合ってきた日々。
人に「行くんだ」と誇らしく話し、「行ってしまう前に」と会う時間を楽しんだり、「帰ってきたら」と数ヶ月後の約束をしたりもしてきた。
旅が始まる日は、そういう日々が終わる日。
そして、「行ってしまう前に」と「帰ってきたら」の真ん中の、未知の時間帯に突入する日だ。
前日まで途切れることなく準備は続き、ホッとする間もなく時計の針は淡々と進んで12月8日は12月9日になった。
そのまま朝が来て、私は時計の時刻に背中を押されるように日常を後にしたのだ。
受付のある建物の入り口につくと、「ピースボートにご乗船の方ですか?」とボランティアらしき若者がカートを持ってきてくれた。
「ありがとう」と言って巨大なスーツケースとバックパックをカートに乗せ、慌ただしく受付に着いてPasseger Identification Cardを受け取る。
出国手続きの簡易なカウンターには空港と同じように係員がいて、出国のスタンプをもらう。
乗船を決めてから1年弱の間に、何度口にしたかわからない「12月9日」がパスポートに印字される。
その頃、パッセンジャーの1人であるわたしは、巨大なスーツケースとバックパックで通勤中の人々に大迷惑をかけながら、「日本大通り」に向かう電車に揺られていた。
車両に詰め込まれた、いつもの金曜日。
世界がいつもの週末を迎える中、私と、同じクルーズを選んだ約1000人の人びとだけが大海原に漕ぎ出し、3ヶ月半帰ってこない。そのことを頭ではわかっているけれど、なんだかピンとこない。
この日を迎えるまでに、何度もたくさんの人に
「世界一周の船旅に出かける」とか「衛星インターネットというのがあってそれで一応連絡はとれるけれども云々」とか
「南極やイースター島やブラジル、アルゼンチン、そういえばマダガスカルや、タヒチにも行くんだ」とか言ってきた。
けれども、それが他人事で、本当のところ何が始まるのか、全くわかっていないことに気づく。
日常を離れることだけが決まっていて、そのための準備に体力気力を使って向き合ってきた日々。
人に「行くんだ」と誇らしく話し、「行ってしまう前に」と会う時間を楽しんだり、「帰ってきたら」と数ヶ月後の約束をしたりもしてきた。
旅が始まる日は、そういう日々が終わる日。
そして、「行ってしまう前に」と「帰ってきたら」の真ん中の、未知の時間帯に突入する日だ。
前日まで途切れることなく準備は続き、ホッとする間もなく時計の針は淡々と進んで12月8日は12月9日になった。
そのまま朝が来て、私は時計の時刻に背中を押されるように日常を後にしたのだ。
受付のある建物の入り口につくと、「ピースボートにご乗船の方ですか?」とボランティアらしき若者がカートを持ってきてくれた。
「ありがとう」と言って巨大なスーツケースとバックパックをカートに乗せ、慌ただしく受付に着いてPasseger Identification Cardを受け取る。
出国手続きの簡易なカウンターには空港と同じように係員がいて、出国のスタンプをもらう。
乗船を決めてから1年弱の間に、何度口にしたかわからない「12月9日」がパスポートに印字される。
ついに、とうとう、いよいよ出国なのに、なんともあっけない。
そんなふうにして、ピースボート世界一周の船旅は始まった。
ここから先は、旅の始まりの数時間に、
とてつもなくふわふわした気分の中で起きたことをお伝えしようと思う。
そんなふうにして、ピースボート世界一周の船旅は始まった。
ここから先は、旅の始まりの数時間に、
とてつもなくふわふわした気分の中で起きたことをお伝えしようと思う。
世界一周の船旅、最初の1日で起きた11のこと
1 お出迎えにホッとする
出国審査を通過し舷門(船への入り口)に向かう通路では、外国人の顔立ちをした人びとが10人ほど、満面の笑顔で挨拶をしてくれた。
舷門をくぐると、バンドが生歌でお出迎え。
舷門をくぐると、バンドが生歌でお出迎え。
さらには、インドネシアと書かれた名札をつけたポーターがスーツケースを引いて部屋まで案内してくれた。
部屋に入るとテレビがついていて、船内生活の案内が流れている。慌ただしく詰め込んで送った荷物のダンボールもちゃんと届いている。
部屋に入るとテレビがついていて、船内生活の案内が流れている。慌ただしく詰め込んで送った荷物のダンボールもちゃんと届いている。
バスルームには清潔なタオルがそろっていて、ベッドメイキングも整然。
こちらはバタバタと乗り込んだけれど、船側はすべてを整えて受け止めてくれた。
こちらはバタバタと乗り込んだけれど、船側はすべてを整えて受け止めてくれた。
2 ホテル暮らしが始まり優雅な気分に
これから3ヶ月半暮らす部屋は、窓こそないもののビジネスホテルのツインルームそのもの。
毎日ハウスキーピングが入り、そうじとタオル交換、ベッドメイキングをしてくれる。
毎日ハウスキーピングが入り、そうじとタオル交換、ベッドメイキングをしてくれる。
夢のホテル暮らしのはじまりだ。
3 避難訓練で入学式気分を味わう
乗船して最初のミッションは、避難訓練を受けること。
老若男女がそろいのオレンジの救命胴衣をつけて集合し、前の人の肩に手をかけながら救命ボートの下まで移動して説明をうける。
この感じ、何かに似ている。と記憶を辿ったら、学校の入学式が浮かんだ。
そういえば、このふわふわした高揚感は、新学期を迎える緊張感に似ている。
生活環境や人間関係が新しく塗り替わる、“期間限定の日常”の始まりだ。
老若男女がそろいのオレンジの救命胴衣をつけて集合し、前の人の肩に手をかけながら救命ボートの下まで移動して説明をうける。
この感じ、何かに似ている。と記憶を辿ったら、学校の入学式が浮かんだ。
そういえば、このふわふわした高揚感は、新学期を迎える緊張感に似ている。
生活環境や人間関係が新しく塗り替わる、“期間限定の日常”の始まりだ。
4 出港直前に携帯の電池が切れ、お見送りの家族を見つけられるか焦る
避難訓練中に「今駐車場に止めて桟橋に向かってる」と妹からのLINE。
場所を指定した直後に携帯の電池が切れる。
デッキに出てみると思いの外遠い!米粒のような見送りの人びとの中から、家族や友人を見つけられるか焦った。
「いる?」「こっちからは見えてるよ」とか言えるように、携帯はしっかり充電しておいたほうがいい。
結果的には見つけることができ、船出を祝う乾杯ができた。
場所を指定した直後に携帯の電池が切れる。
デッキに出てみると思いの外遠い!米粒のような見送りの人びとの中から、家族や友人を見つけられるか焦った。
「いる?」「こっちからは見えてるよ」とか言えるように、携帯はしっかり充電しておいたほうがいい。
結果的には見つけることができ、船出を祝う乾杯ができた。
5 Bon Voyageのテープを誤って落とす
出航の時が近づき、船から陸へと投げるカラーテープが配られる。
見送りの家族が受け取ろうと手を伸ばしているところに狙いを定めて投げたが、持っておくべきテープのはじまで投げてしまい、わたしのテープはただの落下物になってしまった。けっこう難しい。
見送りの家族が受け取ろうと手を伸ばしているところに狙いを定めて投げたが、持っておくべきテープのはじまで投げてしまい、わたしのテープはただの落下物になってしまった。けっこう難しい。
6 あれ!離岸してる!
出航式がにぎやかにとり行われる中、ふと目線を下げると岸と船の間が広くなっていた。
あわてて見送りの人々にもう一度大きく手を振る。
あわてて見送りの人々にもう一度大きく手を振る。
「いってきます!」
あっというまに離れゆく祖国が小さくなっていく。
祖国なんて言葉、ふだんは使わないが、このときは祖国だと思ったのだ。
お見送りの家族や友人も。そのすべてがあまりにも小さいことに、愛しさと涙がこぼれた。
あっというまに離れゆく祖国が小さくなっていく。
祖国なんて言葉、ふだんは使わないが、このときは祖国だと思ったのだ。
お見送りの家族や友人も。そのすべてがあまりにも小さいことに、愛しさと涙がこぼれた。
7 横浜港クルージングを楽しむ
横浜港に漕ぎ出た船上では、早速ランチが食べられる。
ビュッフェでサラダとハンバーガーをもらって外に出ると、ちょうどベイブリッジをくぐるところだった。
真冬の潮風が吹きすさんでいるのに、なぜか寒さを感じない。
ベイブリッジと港町ヨコハマが見えなくなるまで、食事をしながらクルージングを楽しんだ。
ビュッフェでサラダとハンバーガーをもらって外に出ると、ちょうどベイブリッジをくぐるところだった。
真冬の潮風が吹きすさんでいるのに、なぜか寒さを感じない。
ベイブリッジと港町ヨコハマが見えなくなるまで、食事をしながらクルージングを楽しんだ。
8 たまたま出会った人から名刺をもらう
風でとなりのテーブルの椅子が倒れ、「ここは風が強すぎる」と同じテーブルにやってきた石堂さんから名刺をいただく。
船上ではこのようにして、いつでもどこでも、誰かと偶然出会い、ふと名前を言い合って顔見知りになるのだ。
「旅では、いつもとは違う自分が見たい」という石堂さんの言葉が心に残った。
船上ではこのようにして、いつでもどこでも、誰かと偶然出会い、ふと名前を言い合って顔見知りになるのだ。
「旅では、いつもとは違う自分が見たい」という石堂さんの言葉が心に残った。
9 ひとり旅でもさびしくないようになっている
ピースボートって優しい!と感じたこと。
部屋にひとり一部ずつ配られていた船内新聞を見ると、「ご夕食をご一緒に」と集合場所が書いてある。
ひとり参加の人も多いのだろう。初日の夕食で心細い思いをしないように、というちょっとした気遣いがうれしい。
部屋にひとり一部ずつ配られていた船内新聞を見ると、「ご夕食をご一緒に」と集合場所が書いてある。
ひとり参加の人も多いのだろう。初日の夕食で心細い思いをしないように、というちょっとした気遣いがうれしい。
10 レストランでセレブ感を味わう
夕食は、4階のリージェンシーレストランか、9階のリドデッキかで選べる。これから毎日3食、自分では何もしなくても日替わりメニューでお食事がいただける。
リージェンシーレストランでは、サーブまでしてくれるし、食べ終わったお皿はクルーが片付けてくれる。
リージェンシーレストランでは、サーブまでしてくれるし、食べ終わったお皿はクルーが片付けてくれる。
なんというセレブな生活!すでに、降りたくない。
11 魔法がかかったように美味しいビールを飲む
夕食後、旅の仲間とロビーのようなところでおしゃべりしていたら、ものすごく疲れていたが、このまま寝たくない気持ちが優って、9階の居酒屋「なみ平」へ。
そうして飲んだ、キンキンに冷えた中生ジョッキのひとくちめは、しばらく口がきけないほどの美味しさだった。
誰かが「やばい、魔法がかかってる」と言い出し、一同、そうだまさにそれだ、と頷く。
それぞれの人生の長い旅の途上で、こうして同じ船に乗り合わせた奇跡味のビール。
さっきまでの疲れはどこへやら、気分も生ビールの泡のようにふわふわ濃厚クリーミーにとろけて、初日の夜はふけていった。
そうして飲んだ、キンキンに冷えた中生ジョッキのひとくちめは、しばらく口がきけないほどの美味しさだった。
誰かが「やばい、魔法がかかってる」と言い出し、一同、そうだまさにそれだ、と頷く。
それぞれの人生の長い旅の途上で、こうして同じ船に乗り合わせた奇跡味のビール。
さっきまでの疲れはどこへやら、気分も生ビールの泡のようにふわふわ濃厚クリーミーにとろけて、初日の夜はふけていった。
(取材・文・写真/浅倉彩)