ピースボートデッキ > COLUMN > 12日間の日韓クルーズで見つけた大切なヒント~PEACE&GREEN BOAT 2019 REPORT~
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レポート
2019/06/24
12日間の日韓クルーズで見つけた大切なヒント~PEACE&GREEN BOAT 2019 REPORT~

 

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旅にでる。
2019年の春。僕はPEACE&GREEN BOAT 2019に参加した。12日間をかけて麗水、上海、長崎、済州島をめぐる船旅である。

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ピースボートは、これまで65回以上の地球一周の船旅を行ってきた。そんなピースボートの船旅の中でも、このクルーズは特徴的だ。それは日本のNGOピースボートと韓国の環境財団の共同企画であるということ。日韓の参加者が寄港地でのプログラムや船内生活をともにし、アジアの文化や社会を一緒に体験していく。そのなかで「平和で持続可能なアジアの未来」をめざすという、なにやら壮大なビジョンである。

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驚くべき点は乗船者の半数近くが韓国の人ということだ。日韓関係がどうとか色々な問題もあるだろうけれど、さしあたってこれから乗船する僕にとっての課題は言葉である。いや片言の英語くらいならなんとか。ただ片言の韓国語って言われても……「アニョハセヨ?」「カムサハムニダ?」くらいしか知らない。それなのに船内で生活をともにする。そもそもコミュニケーションがとれるのだろうか?一緒に企画を楽しんだりできるのだろうか?

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船が出航する神戸港の澄みきった青空とは対照的に、僕はそんなモヤモヤした不安を抱えながら船に乗り込むのであった。船は順調に航海を進め、翌日のお昼には関門海峡を通過。さらに翌朝目を覚ますと、もうそこはすでに韓国の麗水であった。韓国ってこんなに近いんだ。あらためて両国の距離感を肌身で実感することになる。

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そしていよいよ韓国のお客さんが乗船。言葉の不安が現実のピンチになる瞬間がやってきた。

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夕食のレストランでの出来事だ。僕が案内された席は半数が日本人、半数が韓国の若者であった。「やべ、会話、どうしよう」と挙動不審状態の僕。さすがに食事が終わるまで無言というのはきつい。うーん…と考えていた矢先、隣の日本人のおじさんが、先日の船内企画で実施していた韓国語講座で習ったような即席ハングルで声をかけ始めたではないか。すると今度は向かいの韓国人たちが嬉しそうに言葉を返してきたのである。

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正直、会話が成り立っているとは言い難かった。しかし両者とも楽しそうにコミュニケーションをとっている。身振り手振りに加え、指差しハングル講座の紙を駆使しながら喋っているのである。日本のこと、韓国の食べ物のこと、さらにはテレビの内容まで。そのご年配の方がポカンとした表情の僕に話しかけてくる。「いやぁ、楽しいねー!言葉が通じなくても、お互い一生懸命に何か伝えようとしているこの雰囲気がたまらないねー。」と。確かに。お互い意思疎通しようとする気持ちの部分は伝わりあっているのである。そんな彼の振る舞いを見て、僕の気持ちはすごく楽になった。「あぁ、コミュニケーションなんて、もっとザックリでいいんだな。」この時から徐々に、僕の中で船の景色が変わり始めてきた。

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とにかく船の中は自由な人が多い。これは韓国側の参加者にも同じことがいえた。船内で出会った日本語が達者な韓国のおじさま。「なんでそんなに日本語が上手なんですか?」と聞くと「3年前くらいからYou Tubeとか見ながら勉強してるんだよ。このクルーズはそれらを使う良いチャンスだよ!」と。「ゆ、ユ、YOU TUBE!?」そんなノリなの?それに3年!?もはや謎である。いかんせん人生の楽しみ方を知っているような諸先輩がたの姿を見て、なーんだ、もっと自由にして良いんだ、と心が救われたのである。

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クルーズ後半、韓国の女の子たちにインタビューをとった時のことだった。そのうちの一人がこう答えた。「もともと私は人見知りだったので、外国に出るということは大きな挑戦でした。語学の勉強は苦手なので今まで避けてきました。しかし船内は日本人が多く、なんとかしなければ!と色々なことにチャレンジしました。少しだけですが人見知りも改善されたし、みんなが留学に行く理由もなんとなく分かったような気がします。やっぱり自分でぶつかりながら様々なことを感じる。それこそが言語習得において最も大切なことだと分かりました。」反論の余地なし。まさにその通りです、とただただ僕は頷くだけだった。

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『言葉の壁』を“気持ち的には”乗り越えた。硬派な企画では同時通訳が入るので言葉の問題は一切なし。無事に?船内生活を満喫…どころではない。毎日が衝撃と感動で目まぐるしいスピードで駆け去っていくのである。環境問題に関する企画に参加中、隣に座っていた韓国の人が「日本人と韓国人が環境や人権など同じテーマを聞いて一緒に考えられるのは面白い。環境と平和という問題は協力して解決方法を探していくべきだと思う。」と、本クルーズならではの意見を言っていた。

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一方、硬派ではない企画にも不思議な魅力がある。その一例がカラオケ大会。企画自体は日韓参加者が交互に舞台に立って歌うだけというとてもシンプルなもの。昨今の冷え切った日韓関係で、両者ともお互いに良いイメージを持つことが難しいのは周知の事実。そんなものを吹き飛ばしてくれたのが、この歌の祭典だった。

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その盛り上がり様が半端ではない!互いにエールと手拍子を送り、同じタイミングで笑い、言葉・文化・習慣の違いを忘れたかのように、みんなで一緒にキャッキャッと無邪気に楽しんでいるのである。

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もちろんこれで全て解決する、という意味ではないけれども、少なからずこの空間にはすごく良い空気が流れていたのである。後にも先にも「カラオケ大会」で涙することなんてないだろう。

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最終日に行われた日韓クルーズの集大成のような企画「ピースグリーンフェスティバル」でも同じような感覚を味わうことになる。8階フリースペースに様々なブースが乱立するこの企画。

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韓国の高校生たちがハングルの歌を披露している隣で、

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浴衣とチマチョゴリの試着体験&撮影が行われ

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さらにその隣では水先案内人枝元なほみさん監修の出汁BARがオープンされ、

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その後ろではメイクアップアーティストCeceさんと韓国のナチュラルビューティークリエイターによる日韓美肌講座なるものも行われ、とにかくもうグチャグチャなのである。

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アルゴリズム体操を日本人が真剣に教えたり、

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日本式ハートの形の作り方を韓国人が真面目に真似てみたり

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皆が皆、屈託のない笑顔で隔たりなくワイワイ楽しんでいるのである。この何ともいえない独特の空気感・雰囲気というものが「形式上の国際交流」ではなく「生身の国際交流」として心に強く響くことになる。「楽しい」ということはかくも簡単に言葉の壁、文化を超え、共有できるものなんだと突きつけられてしまった。

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無論、日韓の違いをひしひしと感じざる得ない企画もあった。それが「日韓両国の歴史教科書を比べてみよう」という企画である。それぞれお互いの国の教科書を読み、その後に意見を交わすというこの企画。韓国の歴史の教科書では5ページも書かれている内容が日本の教科書だとわずか7行程度。

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これに対し韓国側の高校生が「日韓共通の歴史がこんなにも書かれていないのには驚きだ。これでは日本人が韓国の本当の歴史を理解できているはずがない」とはっきり口にした。まさに頭をガツンと殴られたような衝撃。僕が当たり前だと思っていたことが全然当たり前ではない。自分が育てられてきた教育環境を初めて外から観たような気がした。バックグラウンドが違うことをお互い知ることの重要性を強く感じたのである。

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それにしても違いすぎる…。どうするんだ、これ。そんな気持ちに陥っている時、例のYou Tubeおじさまからこんな心温まるエピソードを聞くことができた。「今の韓国では日本に対してマイナスのイメージを持つことは仕方ありません。しかしこの船に乗ってみて、人と人との交流がいかに大切かということをすごく感じました。交流を通じてとても親近感が湧きました。長崎での雨の夜、傘を持っていない私は、日本の方がさし出してくれた傘にいれてもらいました。その方はお話しすることが苦手だったのか、一本の傘の下、お互いに沈黙が続きました。私はあの傘の中の雰囲気がこのクルーズが持っている独特の温かい雰囲気そのものだと感じました。日本と韓国が交わる空間、それはとても良いものでした。」このおじさまはいつも僕を救ってくれるのである。

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そりゃ国が違うから衝突だってある。使う言葉だって違うからコミュニケーションも難しい。文化や教育、習慣など前提が異なることが多いから、簡単に「分かり合える」なんて綺麗事は言えない。じゃぁ、僕たちはいつまでも分かり合えないのだろうか?いつまでも歪みあい続けないといけないのだろうか?

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僕はそう思わない。明日になればお互いの関係性もまた変わるかもしれないけれど、今日、この瞬間、みんなで何かを一緒に楽しんだという事実と想い出は決して消えないだろう。そしてそのことはお互いの未来を築いていく上で、すごく重大な選択肢を取らざる得ない時に、とても大切なヒントになってくるのではないだろうか?そんなことを改めてこのPEACE&GREEN BOATで感じさせられたのである。

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「小さな交流の積み重ねが誤解をとく第一歩だと思った。」と日本の若者が言っていた。お互いに通じ合えない障壁がたくさんあるからこそ、頑張って通じ合おうと努力する。頭だけで理解しようとするのではなく、身体をもって体験し、心で感じとる。なんだかんだ言って、みんなシンプルに楽しみたいし、お互いに近づきたい。

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PEACE&GREEN BOATとはそんな「きっかけ」という最初の一歩を、たくさん与えてくれる場所であった。
(文・写真/片岡和志、編集/恩田夏絵)
PROFILE
Kataoka Kazushi
(写真家 兼 スタジオいろは代表)
1982年長崎生まれ 北九州育ち。長崎大学&デンマークInternational People’s College卒業。在学中は環境活動・写真活動に専念。ぷらぷらと一人旅&ピースボートにて世界をぐるぐる周る。卒業後上京。教育業界の営業を5年間。2010年会社倒産を機に写真業・デザイン業・広告業「スタジオいろは」設立。近年は「命」をテーマに「出産」「葬式」を撮影中。
オフィシャルサイト
スタジオいろは https://studio-iroha.com
写真家 片岡和志 https://kataokakazushi.com


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