現場に着くと、昼前から描き始めたというその絵はもうほぼ完成へと近づいていた。地元の男の子たちが興味深げに近づいてきて、言葉少なに眺めている。やがてそのうちの一人がペンキのついたハケを手に取りDragon76に話しかけた。「塗ってもいい?」
笑顔でコミュニケーションを取りながら、Dragon76はマイペースに絵を描き続けている。男の子は少し緊張しながら丁寧に色を塗り始めた。周りの男の子たちは冷やかしながらも楽しそうに見ている。
フェンスで囲まれたその公園のような空間は、地元の人がたまにやってきて座ったり、のんびりとした時間が漂っていた。船からDragon76と一緒にここに来た若者たちも、たまに色塗りを手伝いながら次第に変化していく絵を見守っている。
と、壁画を描いている建物の中から何やら楽しげな音楽が聞こえてきたよ。中を覗くと、こどもたちが伝統楽器の練習をしている楽しそうな姿が。
キューバの伝統のリズムが、こどもたちの体に生まれた時から刻まれているのが聞いていてよく分かる。地元の歌や踊りやリズムっていうのは、きっとDNAが知っているんだね。どういうことかって言うと、習うのではなく、思い出すという感じに近いというか。そんなキューバの日常を切り取ったような空間の中で、壁に描かれたDragon76の絵は生き生きとメッセージを発していた。
今回新しく描かれたのは、キューバ人のおじさんが葉巻を吸っている横顔。その左上には以前描かれた「チェ・ゲバラ」の笑顔がある。笑っているゲバラの絵はあまりないらしいんだ。
なんてったって革命家だからさ、勇ましい顔した絵が有名だよね。だけどDragon76は笑顔を描いた。「チェ・ゲバラが革命家である前に、ひとりの人間だということを彼の笑顔を通して伝えたかった」そんなメッセージを含んだ彼の絵は、革命国キューバの持つもうひとつの表情を優しく照らし出していたんだ。