ピースボートデッキ > COLUMN > 【スピーチ全文書き起こし】世界一“心豊かな”元大統領ホセ・ムヒカさんがピースボートで語った言葉
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コラム
COLUMN Vol.009
2017/03/19
【スピーチ全文書き起こし】世界一“心豊かな”元大統領ホセ・ムヒカさんがピースボートで語った言葉 (3/3)

ムヒカさんのスピーチから受け取ったこと

わたしはムヒカさんのスピーチから、こんなメッセージを受け取りました。
 
「人間として、こうだと思ったことを行動に移すことに励み、自分ではない誰かと心を通わせて生きる。そうして過ごす人生の時間が、お金よりもモノよりも大切である。
 
そして、ひとりひとりがそのような価値観で生きれば、貧困や紛争、自然破壊といった、”しわよせ”を生むマーケット偏重の消費主義的世界を変えることができる。」
 
豊かな日本で、目の前の平穏な日常を維持することに一生懸命になっているとき、貧困や紛争や自然破壊は、意識の外にある遠い世界のできごとです。ムヒカさんは、それでもそれらは確かに存在していて、個人の日常ともマーケットを通してつながっているという事実を、個人の人生や幸福観に引き寄せて話すことができる人でした。
 
そして、ムヒカさんの言葉は、実際に自分のお給料の90%を寄付し質素な暮らしをしていた、という行動に裏打ちされた一貫性と説得力を持っています。だからこそ、例えば横浜市と同じくらいの人口の小国の大統領の言葉が、世界中で共感を呼んだのだと思います。

 

政治家としての一貫性と功績

ムヒカさんのことをもう少し知りたくなったわたしは、どのようにして大統領になった人なのか、大統領在任中に何をしたのかを調べてみました。
 
日本の外務省の公式サイトには、こんな記述があります。
 
「2004年10月に大統領選・両院議会選が実施され、バスケス総裁が選出された結果、ウルグアイ初の左派政権が誕生。FA党は上・下両院で過半数をおさえた。バスケス政権は、経済、初等教育、社会福祉、貧困削減で多大な成果。その成果を受けてムヒカ大統領が当選。
教育、治安、住居、インフラ、農業技術振興、再生可能エネルギー投資、観光の分野に力を入れた」
 
以下は、Wikipediaに記載された来歴をまとめたものです。
 
「20代で極左都市ゲリラ組織ツパマロス国民解放運動に加入。37歳で軍事政権の人質として収監され、50歳までの13年間を牢獄で過ごす。軍事政権の解散とともに釈放され、ゲリラ仲間と左派政治団体を結成。60歳で下院議員となり、70歳で入閣。ウルグアイ初の左派政権となる拡大戦線バスケス大統領のもとで農牧水産相として働いた後、2009年の大統領選挙で勝利した。」
 
大統領の任期中、人工中絶と同性婚、治安維持のために大麻の売買と栽培を合法化。15000世帯の貧困層に無償で住宅を提供する政策「プランフントス」にも力を入れました。
 
再生可能エネルギー分野では、2010年に大統領に就任後、再生可能エネルギーへの投資を70億ドル(約8,500億円)増額。国の年間GDPの15%を投資しました。2014年にWWF(世界自然保護基金)が出したレポートでは、再生可能エネルギーへの投資に関して世界的なトレンドを担っている国として評価され、2015年現在、国の総電力の94.5%を風力・太陽光・水力・地熱でまかなっています。

 

ムヒカさんが日本の政治家だったら、首相に選ばれるか?

外務省の情報が示すのは、ムヒカさんのような考え方を持つ人が大統領になった背景にある大衆の意志です。ムヒカ氏と同じ党で前に大統領を務めたバスケス氏が貧しい人々のための政策を実行し、その成果を大衆が評価し、ムヒカ氏をリーダーに選んだのです。(ちなみに、ムヒカ氏の次は、再びバスケス氏が大統領になっています。また、投獄中の仲間2人も内務大臣と防衛大臣になりました。)
 
ムヒカ氏の訪問後、船内の英語レッスン「GET」で「ムヒカ氏が日本のリーダーだったらいいと思うか?」というディスカッションがありました。
 
わたしは、率直に「いい」とは思えなかった、というか、「そもそもムヒカさんのような貧困層出身の反逆児はトップになれないだろう」と考えたのですが、その思考には、ムヒカ氏のメッセージが持つシンプルさからかけ離れた日本の現状が現れているように思います。
 
日本にも貧困がある、というデータがあります。国土の一部は、米軍に支配されています。
 
でも、劇的な経済成長を終えた後の国だからなのか、武力で独裁的に支配された経験がない国だからなのか。ひとびとの間に、圧倒的な「抑圧」をはねのけてくれる、現状に対して反逆的なリーダーを求める風潮はないように思います。
 
みんながそこそこ豊かに暮らせるようになり、その豊かさを維持できないことに不安を覚える社会。そんな社会は、ゼロベースでシンプルに幸せを考え求めることは難しく、今ある幸せも感じにくい。そして政治家は特権階級であり、もはや「個人の幸せ」にコミットする存在ではないのではないでしょうか。
 
だからこそ、日本でムヒカ氏が”うけた”のだと思います。一国の大統領が「個人の幸せ」について語ることの意外性と、語られたシンプルな幸福観や人生観が、ぼんやりとした凋落の不安を抱える日本人の心に響いたのでしょう。
 
一国の元大統領であるムヒカ氏の訪問と、それを歓待した乗船者たちの様子を目の当たりにした経験は、自分が暮らす日本という国を見つめるいいきっかけになりました。ちなみに、前回乗船した第70回クルーズでは、先日亡くなったキューバのフィデル・カストロ元国家評議会議長にお目にかかることができました。ムヒカ氏の政治思想の礎は、ほかでもないキューバ革命にあります。歴史上の人物と生で遭遇できる機会は、ピースボートの国際NGOとしての力を感じる一幕です。
(取材・写真・文/浅倉彩)
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PROFILE
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浅倉 彩(トラベルライター)
エディター、フォトライター、クリエイティブプランナー。東京と沖縄を拠点に世界で活動中。スローフードユースネットワーク東京共同代表。(株)TABIPPOとピースボートのコラボ企画「TRAVELERS BOAT」の船上編集長として、第93回クルーズに乗船。


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