ピースボート乗船は良い先生になるためのステップアップ
日向 先生になるのは昔からの夢でした。先生として世界のことを子どもに教えるときに、自分が実際に世界を見ているのと見ていないのだと、伝えられることが変わると思って。より良い先生になるためのステップアップとして大学生のうちに世界を見に行こうと決めました。
早い時期から「大学生のうちに世界を見に行く」ことを決めていた日向さんは、1年生の時からお金を貯めたり準備を進めていた。1年生の春休みにどこか行こうと思っていたものの、一人で行く勇気がなくて1年生の春休みは結局何もできなかったそう。
日向 そんな時に、別の大学に通っていた先輩が「ピースボート乗ったよ」って色々話を聞かせてくれたんです。一回の旅で一気にたくさんの国を回れること、1000人乗っているから出会える人のバラエティが豊かなこと、教育系とか寄港地で学べるツアーが充実してること……みたいに魅力がたくさんあったのでピースボートで世界を見に行くことを決めました。
今でこそ大学生が休学して海外に行くことがポピュラーになってきているが、休学や留学が一般的ではない教育大学に在学していたことで苦労をしたことも。
日向 僕の場合は明確な目的があって休学しようとしていたのに、教授とかにも「結局遊びに行きたいんでしょ?」みたいに言われちゃいましたね。休学許可をもらうために「この寄港地でこんなツアーに参加してこういう学びを……」みたいな事前レポート書いたり。説得するのが結構大変でした(笑)
教科書に載っていた世界が目の前にある感動
日向 勉強するのに使っていた地理の資料集にソグネフィヨルドの写真が載っていたんですけど、その写真がすごく好きで。その写真が撮られたのと多分同じ場所に行ったんです。写真で見たそのまんまの景色が目の前にあったので「ああ今、本当に世界を見に来ているんだな」ってすごい感動したなぁ。
教育に興味のあった日向さんは地元の小学校を訪問するツアー、民族を訪問するツアー、地域の人と文化・スポーツ交流をするツアー、アウシュビッツ強制収容所を訪れるオーバーランドツアーなど、学び系のオプショナルツアーを多く取っていた。特に印象に残っているのはカンボジアの地雷検証ツアーだと語る。
日向 一つ目の寄港地で離脱してカンボジアに向かったから、ほぼ最初の寄港地だったっていうインパクトもあるのかもしれない。カンボジアの歴史とかは事前に勉強してたから、ポルポト政権があって……みたいに、何が起きたのかは知っていたんだけど、実際に被害を受けた人と話したら遠い昔の話じゃないってことを感じました。教科書で学ぶのと実際に見て学ぶのは全然違うっていうことをリアルに実感したので今でもすごい印象に残っています。
ピースボートで感じた居心地の良さに、ゲストハウスで再び出会う
ピースボートで旅の楽しさにはまった日向さんは、船を降りてから残りの休学期間に国内の様々な所を旅したという。
日向 元々自然が好きだったのもあるし、ピースボートで仲良くなった人に会いに行く旅をしていたら田舎に行くことが多くて。ゲストハウスを利用するようになったのはピースボートに乗った後だったんですけど、ゲストハウスとピースボートの雰囲気がすごい似てるなって思いました。年齢も国籍も関係なく人が集まって話して仲良くなって、出会った人と連絡先を交換して、その後も関係が続いていく感じとか。それは僕にとって「居心地の良い空間」だったので、自分でゲストハウスを作りたい!と思うようになりました。
元々先生になることが日向さんの夢だったが、ゲストハウスでの体験によって、気持ちはすっかり「自分のゲストハウスを作りたい」という方向に傾いてしまった。
日向 ゲストハウスは作りたいだけど、先生になりたいっていう気持ちは自分の根幹みたいなものだからそっちも捨てたくない、捨てられない……って悩みましたね。
それこそピースボートに乗るまでは、教育=学校の先生っていう概念しかなかったんです。でも、たくさんの人と出会っていろんな仕事を知るうちに、学校じゃなくても教育と子どもと関わる仕事ができるんだなーって思うようになったので、なんで自分は先生になりたいのかを考えなおしました。
それこそピースボートに乗るまでは、教育=学校の先生っていう概念しかなかったんです。でも、たくさんの人と出会っていろんな仕事を知るうちに、学校じゃなくても教育と子どもと関わる仕事ができるんだなーって思うようになったので、なんで自分は先生になりたいのかを考えなおしました。
子ども達に世界を見せるのは、学校じゃなくてもできる……!
日向 自分が先生になりたいのは、子ども達にいろんな世界を見せたいとか、世界を知ってほしいっていう思いだったんです。その自分の原点に戻ったら、別に学校じゃなくてもいいんじゃないかと気がつきました。それこそゲストハウスは世界とつながっているから、ゲストハウスで学童をしたら、自分が教えるだけじゃなくて子ども達自身が体感できるし、いいじゃん!!って衝撃的な閃きでした(笑)。それが復学のちょっと前くらいかな。
日向さんが復学したタイミングで、今学童をしているゲストハウスの1号店がオープンした。その経営者にノウハウを聞いたり相談に乗ってもらう中で、夕方チェックインのゲストハウスは日中の活用方法を探してるということが分かり、ゲストハウスで学童をするというアイデアに自信が持てたそうだ。
日向 大学卒業後は資金を貯めるために、3年くらいバイトだけしよう!と決めて大阪に行きました。でもピースボートが出している日韓合同クルーズ『ピース&グリーンボート』にボランティアスタッフとして乗船して、そこでまた色んな経験をするうちに、3年間もただお金のためだけに働くのはつまんないな……と思ったので1年くらいで札幌に戻ってきました。
札幌の人は”札幌だけ”になりがちだから、ここに世界とつながれる場所を作りたい
ピースボートをはじめさまざまな場所に旅をした日向さんだが、活動の拠点は自身の地元・札幌であることにこだわっている
日向 新千歳空港が近くにあるから世界ともつながれるし、札幌から北海道の○○……みたいに北海道ともつながれるすごく恵まれた土地なんです。でも、北海道の中では一番大きな街っていうこともあって、札幌の人って”札幌だけ”になりがち。ピースボートに乗ったり旅したり世界を知ることではじめて、札幌が実は狭いこととかクローズドなことに気がつく。でもだからこそ、僕は札幌っていう街がすごい好きだから、ここに世界とつながれる場所をつくりたいんです。
自分のゲストハウスの中で学童保育をやりたいと思っていた日向さんだったが、今はゲストハウスの場所を借りる形で学童保育を運営している。
日向 ゲストハウス雪結の方も手伝ってはいますが、僕の活動のメインは学童保育の運営です。2016年の8月にオープンした雪結も、例にもれなく日中の場所の使い道を探していました。1号店のオープン時から『ゲストハウス×子ども』をやりたい!ってオーナーに話していたので、オーナーがその熱意を買って「ここで学童やらないか」って声をかけてくれたんです。
自分のゲストハウスを作りたいと思ってたけど、本当にやりたいのは子どもとゲストハウスをつなげることだから、自分のゲストハウスじゃなくてもいいじゃんって思いました。今の体制だと自分が学童の運営に集中できているので、結果的にいい形になってますね。
自分のゲストハウスを作りたいと思ってたけど、本当にやりたいのは子どもとゲストハウスをつなげることだから、自分のゲストハウスじゃなくてもいいじゃんって思いました。今の体制だと自分が学童の運営に集中できているので、結果的にいい形になってますね。
こうして2017年7月、ゲストハウス雪結内に学童保育「アドベンチャークラブ札幌」がオープンした。宿泊客との交流や世界の文化体験などゲストハウスで行うからこそ出来る活動を行っており、現在の登録者は40人ほど。1日に10人前後の子どもたちが利用している。また、2019年9月からは自身の持つ教員免許を生かしてフリースクールの事業も始めた。
本気でやりたいと思ったら手を貸してくれる人がいることに気がついた
ピースボート乗船をきっかけに、先生になるという自分の夢を見つめなおし、学校外で子ども達の教育に関わるという方向に舵を切った日向さん。そんな彼に、ピースボートに乗ってよかったと思うことを訊ねた。
日向 自分が本当にやりたいこととか興味のある分野が定まったことかな。乗る前は面白そうなことは全部やるっていうタイプだったので、船の中でも「あれもやってこれもやって……」とすごく忙しい日々でした。でも時間は限られているから、何をするか何をしないかを自分で選択しなきゃいけない。そうやって毎日過ごしていくうちに、自分はどんなことに関心を持っているのかがはっきり分かってきました。本当にやりたいことが明確になったんです。
船内の自主企画を通じて、自分のやりたいことを実現するという経験をたくさん積んだことでチャレンジすることに対するハードルが下がったという。
日向 船の上では誰かが「やりたい」って言ったら「協力するよ、応援するよ」って言う人が必ずいます。それは船の中の話だけじゃなくて、陸でも同じなんだと気がつきました。自分が本気でやりたいと思ったことに対して行動したら実現するし手を貸してくれる人と思えるようになったんです。学童を始めたことで、それが本当だったんだなと実感しています。
最初の先生になるという夢から形は変わりつつも、自分の一番やりたかった「子ども達と世界をつなげる場を作る」ことを追い求めて実現させた日向さん。彼に今後の目標、やりたいことを伺った
日向 とにかく、より多くの子どもや、地域の人たちが出会う場所をつくりたいです。ゲストハウスにこだわらず、人が集まる場所や企画をして、子どもを繋げる。あとはその実績でピースポートにゲストとして乗船したいです(笑)
(取材・写真/鷲見萌夏 写真提供/日向洋喜)