ピースボート第93回クルーズでは、16カ国18の街を訪れました。行く先々で人々の暮らしと出会い、その匂いをかいでは、同じところや違うところを見つけることは旅の醍醐味。
起きて働き、食べ、寝る。世界中の誰もが日々繰り返す営みの中で、そのどれにも当てはまらない隙間時間に、誰もが求める幸せが潜んでいるのではないか。そう思えてくるほど共通していたのが、「憩う空間」の存在でした。
カフェも、カフェと呼ぶにはシンプルすぎるちょっとした道端も、これといった意味はないような隙間時間を過ごす場所だからこそ、その余白に地域の風土や文化が滲み出るよう。南半球で出会った、「憩う空間」の数々を紹介します。
シンガポール 軽食スタンドのマサラミルク
チャイナタウン、アラブストリート、リトルインディアと、それぞれ別の国を旅しているような個性が凝縮したシンガポールで、マサラミルクと呼ばれるパステルイエローの飲み物に出会いました。
身振り手振りで聞いてみると、どうやらチャイから紅茶を抜いたもののよう。紅茶の風味が抜けた分、チャイよりも甘みが強く感じられ、デザート感覚の味でした。
揚げ物などのスナックと一緒にマサラミルクを売るスタンドがあったのは、もちろんリトルインディア。お店の目の前、屋外に置かれたテーブルで、インド系の若者が4人、これを飲みながらのんびりと憩っていました。
レユニオン島 市場カフェでサモサとスムージー
こちらは、新鮮で色鮮やかな野菜や果物が山と積まれた市場の中のカフェ。
メニューはインド料理のサモサとアメリカ発祥と言われるスムージー。多民族の人々が暮らす島らしく、ミックスカルチャーな取り合わせです。
スムージーをつくってくれたお兄さんのお顔立ちも、どことなくミクスチャー。
すぐそばで生命力をみなぎらせて売られている多彩なフルーツをスムージーにしてもらえるなんて、最高に贅沢な朝ごはんです。
マダガスカル・エホアラ 道端で生タマリンドジュース
お腹はこわしませんでした。それ以前に、今までに飲んだことのない美味しさでした。
杏と柿を掛け合わせたような、甘みと酸味の絶妙なバランス。言葉が通じず確かめようもありませんが、100%生搾りであることが確信できる混じり気のない果実味。クーラーボックスとコップ洗い用のバケツ、商品はペットボトルから注ぐ生タマリンドジュースのみ、という究極にシンプルな店(?)がまえの道端カフェでした。
マダガスカル・エホアラ 道端でアイス
結果、見ての通り、それはそれは不味かったです、この小さなアイス。でも、かわいいから許す!
きっと、娯楽の少ないマダガスカルでは、このアイスを買い食いするひとときが、日々の清涼剤になっているんだろうな。ひょっとして10代の若者がデートするときに、ひとつずつ買って手をつないで食べてたりして。などと勝手に想像が膨らみます。
マダガスカルの人にとって、憩いの場は基本、外!?と思ってしまうほど、道端のそこここに、赤ちゃんをお昼寝させたり、食べたり、寝たり(!)思い思いに過ごす人があふれて。南国の大らかな空気を胸いっぱいに吸い込めた、素敵な1日でした。
南アフリカ共和国・ケープタウン テーブルマウンテンの頂上カフェ
ケープタウンの街を見下ろすテーブルマウンテンは、ロープウェーで頂上まで行くことができます。
水平線まで見渡せる海と空、雄大な岩山の稜線が視界のほとんどを占領し、街は小さく、弓なりのカーブが美しい海岸線に寄り添うようにして、そこにありました。息をのむような絶景と、カラッと吹き渡る風。大自然の雄大さに体ごと包まれる、とてつもなく気持ちのいい場所でした。
いつまででも風に吹かれていたいようなキリッと冴えた気分で一杯のカフェオレを飲み干す、爽快な時間でした。
アルゼンチン・ブエノスアイレス 世界で二番目に美しい本屋さんのカフェ
アテネオ書店グランスプレンディッド劇場支店は、英国「ザ ガーディアン」誌で「世界で二番目に美しい書店」として紹介されてされて以来、ブエノスアイレスの観光名所になっています。
見てのとおり、劇場の優美な空間がそのまま本屋さんになっており、舞台のスペースがカフェに。観光名所なので人が多く、正直気忙しいのですが、劇場でなおかつ本屋さんだなんて、お茶をする空間としてとてもレアなので、ご紹介しておきます。
ハムとチーズのエンパナーダが美味しかったです。
チリ・バルパライソ 坂とアートの街を一望カフェ
なんの変哲もないビル街を歩いていたら、ふと斜め上方向に見えたストリートアートが気になり、そちらに向かって坂道を登り始めたら、あれよあれよというまにめくるめくアートの世界に飲みこまれた。
それが、チリ・バルパライソ(Valparaíso)での体験です。迷路のように入り組んだ階段を登ったり降りたりしているうちにどこにいるのか全くわからなくなりますが、そんなことがどうでもよくなるぐらいに、カラフルな街並みや海の遠景が素晴らしく、次々と目を奪われることしきり。
そんな不思議の国で見つけたカフェの窓辺には、うららかな陽光が燦々と降り注ぎ、家々に覆われた斜面やその向こうの海が見渡せました。
「バルパライソの海港都市とその歴史的な町並み」は、2003年にUNESCOの世界遺産に登録されています。
ペルー・マチュピチュ遺跡 標高2430mのカフェ
リマから空路でクスコへ、そこからバスや電車でアンデス山脈の急峻な山肌を縫うように走って登ってようやくたどり着く秘境マチュピチュ遺跡。そのゲートの手前にカフェを発見したときは、迷わずツアーを離脱して、深呼吸の時間をつくりました。
これから、今はなきインカ帝国の、いや、人類の秘密に足を踏み入れる前の厳かな気分。アンデス山脈に分け入った先にある標高2430mの空気はみずみずしく、どんなに多くの観光客がいても不思議と乱れることのない、静謐さを湛えていました。どこでもドアがあったら、毎朝ここで寝起きのコーヒーを飲みたいです。
旅を振り返ると、訪れた国でいちばん、ひとびとの「笑顔」に出会えたのは、ここで紹介した場所だったかもしれません。限られた時間の中で、名所旧跡や主要な観光スポットを巡ろうと忙しくなりがちなピースボートの旅ですが、はたと見つけた憩う場所で、ほんのひととき時間を忘れ、のんびりしてみてはいかがでしょうか。
(取材・文・写真/浅倉彩)