テーブルにつくと彼らは当たり前のように私たちの向かいではなく隣に座った。まるでダブルデート、なんじゃこりゃ。まあいっかとメニュー選びに意識を集中させて、とりあえず料理を注文してみたよ。美味しそうなカレー2種とチャパティ、ターメリックライスにビールの瓶2本がテーブルに並んだ。
インドでは手で食べるんだよと、チャイが手づかみで食べ始める。「地元の食堂では注意して」と散々言われていた私たちは、しっかりと念入りに手を拭いてから、禁止事項の手づかみ食いにチャレンジ。うん、美味しい。手づかみだと味覚だけでなく、そこに触覚も加わって更に美味しく感じるんだよとSちゃんの運転手が言った。確かに、スプーンで食べるのと味が違う気がする、何だかカレーがワイルドな食べ物のように感じるよ。インド人にとってカレーって、これなんだね。
「はい、あーん」チャイが私の口元に、手づかみでカレーを浸したご飯を差し出した。いやいや、あなたさっき手を拭いてなかったでしょ。地元の食堂で食べるだけでもお腹が危ないって言われているのに、手づかみな上に手も拭いていない…ちょっと待ってよ~助けを求めてSちゃんを見ると、ニヤニヤしながらカメラを構えている。まるで助ける気配なし。諦めて大きく口を開けると、チャイの指ごとご飯が投入された。
どうにも後味が濃厚なダブルデート的ランチも終わり、もう一度気を取り直してリキシャに乗り込む。「あと何件かお店まわったら、行きたいところに連れてってあげるよ」…って、どんな観光なのこれと思いつつも、これはインド人の日常を感じる「インド人観光」なんだと思い直して、チャイという人を通してインドを感じてみようと思った。
リキシャに乗ってると、車が「ププッ」と音を鳴らして手を振ってくる。チャイの知り合いだ。狭い町だから顔見知りもいっぱいいるんだね。走行中に突然、道路のど真ん中でチャイが手を上げて、前から屋台を引いてきた商人を止めた。大声で何かやり取りしてるなと思ったら、チャイが左手を私の前にスッと差し出したんだ。手のひらにはピーナッツの山。ふたりでピーナッツをかじりながら街を走り抜ける。
狭い道の両脇には小さな商店が色を添え、野放しになったヤギが飼い猫のように玄関先で鳴き声をあげている。前から歩いてくる人や牛をスルスルとよけ、たまに携帯で電話しながら片手ハンドル走行。適当な感じで運転しているチャイといると、なんか昔っからの友だちとドライブしているような感覚になってくるよ。
「おうちはどの辺なの」と、初めに聞いていた私の質問に答えて「あの角を曲がったところにうちがあるよ」と、近くまで連れてってくれた。9人兄弟がいて、今まで海外に出たことないけど、コーチンが大好きだから問題ないよとチャイはニコニコと笑っていた。
海外ではタクシーの運転手さんと話す機会が多いけど、みんなそれぞれ自分の国を誇りに思っていて、大好きなんだ。それってとっても素敵なことだなって思う。ある人は国の歌を歌い出すし、ある人はリズムをとりながら…そうやって調子が出てくると楽しくなっちゃって、だいたいは途中でぶっ飛ばしはじめてスピード狂と化すんだけどね。