ピースボートデッキ > COLUMN > 中国・廈門編〜Peace on the Boat trip〜
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シリーズ
SERIES:01 Vol.1
2017/10/21
中国・廈門編〜Peace on the Boat trip〜
ビースボートの船旅であちこち迷走したHinataの旅物語、「Peace on the Boat trip」。
笑いありハプニングあり、ちょっと不思議でほんわか緩まるHinataワールドへようこそ。
 
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「ドーナツの中身は懐かしの味・悠久の国のハイ&スロウ」

中国の世界遺産のひとつ「福建土楼(ふっけんどろう)」は、上から見るとドーナツみたいな形をした建物なんだ。田舎の山間部に隠れるようにしてあった福建土楼、その存在が航空写真で発見された時には「ミサイル施設かも知れない」ってアメリカが間違って認識したっていう逸話があるんだって。
福建土楼は、住居になっていてさ。三階建くらいの長屋がずーっと横に続いていて、それがドーナツ型になっているといった具合。四角い形の土楼もあるよ。昔はこの地方にもっとたくさんの土楼があったそうなんだ。みんなそこで暮らしていたんだけど、今は人が住んでいるのはここの土楼だけ。仕事がないから若者は都会に出ちゃったらしい。それでもまだここで住みながら働きに出てる人もいるし、土楼の中で観光客相手に物を売っている人たちもいる。この近辺ではお茶作りが盛んで、お茶と様々な乾物を作っている人が多いようだ。

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ドーナツ型の土楼は目の前にすると相当の大きさで圧巻。中に入っていくとそこは正月を祝うお祭り広場のような雰囲気で、餅つきのようなことをしていたり乾物やお茶などを売っていたり、昔懐かしいような風景にフワッと取り囲まれる感じ。おじさんやおばさんが、これを食べてみななさいと試食をどんどん勧めてくる。勢いはとにかく凄いけどそんなに嫌な気分ではないかな。正月に久々に再会した親戚に、あれこれ世話焼かれてるような雰囲気というか。なんか、どこか懐かしいんだよね。
その広場には色んな場所から観光客が来るらしく、私たち以外にもお客さんがいてお茶を囲んで楽しげに飲んでいた。中国のお茶の飲み方って独特なんだ。陶器の小さなコップをたくさん用意して、平たい円柱形の陶器やお盆など上にそれらを全部並べる。まずはお湯をちょっとずつ入れてコップを温めて、そのお湯を捨ててからがお茶を入れる段階。お茶を少しずつ順番に注いでいってそれぞれのコップのお茶の量を均等にする。中国は家族が多いからかな、全員に行き渡るように量が少しずつなのかもしれない。

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一人でお茶を飲まず、みんなで楽しむスタイルになっている所がいいよね。それが一目見ただけで分かるような形をしているお茶セットは、陶器で作られていたり木製のものがあったり、お洒落でデザインが独特。そんな台の上でコップを温めたお湯をこぼすと、小さな穴から下の受け皿に流れるようになっているのも面白い。こういうお茶セットひとつとっても、その国の文化の形が表れていて素敵だなって思う。シンプルだけど実用性があって、どこか温かみさえ感じるんだ。そこから生活の風景が見えてくるというかさ。
物思いにふけりながら歩いてたら、ふと、土楼の奥に目が留まった。壁の所々がトンネルみたいになっておうちの入り口になってるんだけど、その奥の方に、おじいさんとおばあさんがテーブルを挟んで座っていて。おじいさんと目が合ったんだ、そしたらおいでおいでって、手招きしてくれた。
短いトンネルのような入り口を入っていくと、その奥は狭い小庭のようになっていた。ふたりはテーブルを挟み、ちょこんと向かい合わせに座っている。それまでザワザワしていたまわりの賑やかな声も、ここに来ると何故か急にすっとなくなって消えてしまったんだ。

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おじいさんは言葉ではなくジェスチャーで、写真撮っていいよと合図してきてタバコを吸い始めた。ふと見渡すとそこには天井がなく、空と生活空間が入り混じったような風景が色濃くあって。息をするとギュッと濃縮された時間を吸い込んでしまうような、そんな場所だった。ふたりの存在も、その空間との一体感がすごくってさ。なんだか違う時空にさまよい込んでしまったような不思議な気分だったよ。
相変わらず何も喋らないふたり。だけど、私を受け入れてくれているのはしっかりと分かる。心地よい空気感、時間も空間も経て互いにそこに「有る」というだけの存在。言葉は分からなくても心が通じてるって、こんな感じなんだなって思った。
おじいさんがゆっくりとジェスチャーで、自分たちを撮ってって指差した。彼らの写真を撮る。彼らの悠久の時間を切り取る。そこにしっかり「有る」ということを、記憶するために。彼らがクシャッと笑った顔のシワも、タバコの煙も、時の経過の形は確かにそこに有った。

 

お礼を言ってさようならを告げると、ふたりはゆっくりとうなずいて彼らだけの時間に戻った。
2メートル程の短いトンネルを抜けて広場に戻ると、急にまたザワザワと賑やかな空間が戻ってきたんだ。ちょっとの間ボーッとしてしまったよ、ワープ感があったというかさ。今のは何だか素敵な時間だったなあって思ってふと振り返ったら、トンネルの向こうにもう、ふたりの姿はなかった。そこにはテーブルと椅子が昔からの状態を保っているかのように残っているだけ。彼らはホントにあそこに「有った」のだろうか…どちらにしても、幸せな時間を共有できたことに感謝だな。
長い長い歴史を培ってきた中国。そんな穏やかな気分に満たされた時間もあれば、あまりのスピード感に驚いたこともある。都会での車の運転の凄さは、聞きしに勝るものだった。とにかく生きるか死ぬかの感じというか。私たちの乗っていたバスの運転手さんもそうだし、中国の都会の道路を走っている車全体に言えるんだけど、ちょっと飛ばしすぎな気がする。そんなに人生急いでどうするんですかって言いたくなる程。しかも日本みたいに歩行者優先ではないんだよ、車優先なんだ。だから日本の感覚でいたら間違いなくはねられちゃうよ。

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ドライビングテクニックはね、凄いと思う。そこに国民性が出ているというかさ。培ってきた長い歴史がそうさせているんだろうか、きっと大丈夫と思わせる揺るぎない何かがあるんだよね。というか、運転に優柔不断な様子が全くない。スパッとしてるから逆に分かりやすくて安全なのかもね。とはいえ、車間距離も隣とスレスレのヒヤヒヤもの。バスのスリル溢れるドライブにもう今は笑うしかない状態。
よし、こうなれば考えごとでもしてみよう。例えば。スピードが速い=危険って思いがちだけど、もし車が隣同士で同じスピードで走っていたら、車体が触れたとしてもお互い止まっているようなものなんじゃない?速い車と遅い車があると逆に危険で、そう考えると中国の一定したハイスピードは逆に安全だったりする?じゃあもしそうだとしたら、その間をバイクで走って両側から挟まれたとしても、同じスピードなら止まっている車に挟まれたようなものなのかも。だったら安全だ。うん、安全か?などと色んな妄想を頭の中でシュミレーション。とりあえず両目はギュッと閉じてそんな現実逃避をしつつ、目的地到着をただ待つばかり。そんなバーチャルリアリティー的な現実の中、更に凄いことが。

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私たちの乗っていたバスが、どうやら道を間違えたようで。このまま行くとお土産のお茶屋さんに行く時間がなくなるかもって時間。バスガイドさんと運転手さんが中国語で何かやり取りしてるなと見ていたら、急遽、バスは中央分離帯へと向かい反対車線へUターン体制に。が、反対車線もかなりのスピード&速度を落とす気配は全くなし。しかし一瞬の隙を見てバスがグンッと前に前進、反対車線の全車線分を真横に完全にふさぐ形で飛び出した。何て大胆なんですか。
逆車線ではみんな急ブレーキ状態、だけどそこはさすが中国、ぶつかりもせず妙にこなれた感さえもあり。しかもバスがデカいから、一回の切り返しではUターンできず2回、3回と…完全に道をふさいでトコトンまでやってやるぞといった具合。そしてそこからまた何事もなかったかのように走り出し、徐々にまたスピードはアップしていったかと思いきや、次はなんと、前を並列して走る2台の車をあおり始めたんだ。
ひたすらネチネチと後方からバスがあおり続けた結果、あおられ続けた2台の車はお互い意思を合わせたかのように突然、おもむろに互いに左右にずれていき、波が割れるが如く真ん中に道が開いた。えっと、十戒ですか?茶化したくなるくらいにありえないシチュエーション。2台の車は両側の車線スレスレを走っていて道幅が広いと言えどもかなり危険、だけどスピードを落とす気配も全くなし。そしてそんな中、さも当たり前かのようにバスはその開いた2台の車の真ん中を、更にスピードアップして威風堂々と走り抜けていったんだ。
私がここで見た世界は現実にあったのかしら…というくらいに中国って、いろんな意味で悠久の夢の中のような、ある意味時間を感じさせない不思議な国だったよ。

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「PHOTO GALLERY」

 

建物の奥には広がりのある空間が隠れている


生活をしているそのままの風景がそこにあった

 

乾物は生活の知恵

 

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土楼の中にある売店は生活の糧

 

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土楼の外には公衆電話とバイク

 

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ここでは全てがのんびりしたスピードだった

(取材・文・写真/Hinata)

PROFILE
hinata
Hinata(フリーライター)
国内を転々と放浪した後、沖縄にたどり着き12年を過ごす。現在は神戸を中心に活動中。ハワイ好きでフラ歴もあり、ロミロミマッサージのセラピストとしての一面も持つ。好きなことは料理・物作り・音楽・読書・写真・旅などあらゆることに興味はつきない。ピースボートで世界一周の船旅(第90回クルーズ、第92回クルーズ)に参加、その物語を綴る。


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